研究課題
半導体量子ドットは,生体内蛍光材料としてさまざまな魅力的な特性を有している。代表者らは最近,ホウ素とリンを高濃度にドーピングしたシェルを有する新しいタイプの水分散性シリコン量子ドットを開発した。この量子ドットは,バイオメディカル応用に有効な様々な特徴を有しており,極めて汎用性の高い新ナノバイオフォトニクス材料になる可能性を秘めている。本研究は,この新材料のバイオ応用のための汎用的基盤技術を開発することを目的とする。本年度は,以下の成果を得た。I) ホウ素とリンをドーピングしたシリコン量子ドットは,熱処理によりボロンリンガラス中にシリコン量子ドットを成長させた後,エッチングによりボロンリンガラスを除去する方法で作製する。これまで,ボロンリンガラス中のシリコン量子ドットの成長過程(特にシェル形成の過程)については,ほとんどわかっていなかった。成長初期の試料をラマン散乱と透過型電子顕微鏡により詳細に調べることにより,固体中におけるシリコン量子ドット成長とシェル形成の過程を明らかにした。II) 我々のシリコン量子ドットは,従来のシリコン量子ドットでは困難であった生体の第二窓と呼ばれる波長領域において発光を示す。しかしながら,発光量子効率は非常に低く1%以下であった。ドーピングするホウ素とリンの濃度を最適化することにより,生体の第二窓の波長領域で1%を超える発光量子効率を実現した。III) シリコン量子ドットのサイズ選別技術を開発し,非常にサイズ分布が小さいシリコン量子ドットの溶液を作製することに成功した。これにより,サイズ,不純物濃度,発光エネルギーの関係をより高精度に評価することが可能になった。実験結果と計算結果を比較することにより,シリコン量子ドット中の活性な不純物の数について知見を得ることができた。IV) 昨年度に開始した誘電体ナノアンテナに関する研究を継続して行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画をほぼ完全に達成している。それに加えて,昨年度から当初計画には無かった研究として,直径100nm~200nmのシリコンナノ結晶の開発とその誘電体ナノアンテナとしての機能実証に関する研究を開始し,有望な研究に発展しつつある。
研究は順調に進んでおり,来年度は,主に以下の研究を実施する。I) シリコン量子ドットを生体に導入すると、シリコン量子ドットとタンパク質が結合し、表面に蛋白質の層構造(プロテインコロナ)が形成されると考えられる。しかしながら、その詳細については全く明らかになっていない。カレル大学のグループとの共同研究で、シリコン量子ドットとウシ胎児血清(FBS:Fetal bovine serum)を混合した場合に形成される複合体を質量分析(MALDI-TOFMS)により評価する。さらに、よりシンプルな系として、ウシ血清アルブミン(BSA:Bovine serum albumin)とシリコン量子ドットとの相互作用について、透過型電子顕微鏡、動的光散乱(DLS:Dynamic light scattering)、電気泳動により研究する。II) シリコン量子ドット蛍光検出型バイオセンサの実現に向けて、シリコン量子ドットによる抗体の標識化の研究を実施する。具体的には、免疫グロブリンG(IgG : Immunoglobulin G)とシリコン量子ドットを共有結合で結合する技術を開発する。本研究において、IgGをシリコン量子ドットで修飾した後も、シリコン量子ドットの発光特性が変化せず、IgGの抗原との特異的結合が損なわれない事が重要である。これらの条件を実現する標識化の技術を開発する。III) シリコン量子ドットは、可視光による水の分解による水素生成反応のフォトカソードとして優れた特性を有する可能性がある。特に、ホウ素とリンを同時ドーピングしたシリコン量子ドットは水に完全に分散し、さらに従来のシリコン量子ドットに比べて高い酸化耐性を有することから、高い水素生成効率を安定して示す可能性がある。様々なサイズや表面状態のシリコン量子ドットについて、光触媒反応を検証する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 2件、 査読あり 13件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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