研究課題/領域番号 |
16H03833
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
森 茂生 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20251613)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 小角電子回折 / ローレンツ顕微鏡 / 位相差顕微鏡 / 磁気テクスチャ |
研究実績の概要 |
本研究では、汎用透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、電子光学レンズ系の制御により、(1)10-2[rad]から10-7[rad]に及ぶ角度分解能を持つ小角電子回折法の実現、(2)同一領域から小角電子回折図形、ローレンツTEM像および構造的暗視野像を取得できる多元的微細構造観察システムの構築を行うことを目的とする。本システムを強相関系物質やマルチフェロイック物質に展開し、磁気渦構造等の非自明な高次構造の形成メカニズムやスピン構造を解明することを目的としている。 本年度は、位相差顕微鏡法を用いて、磁気テクスチャでの磁化分布解析を行った。また、磁気偏向や磁気周期の定量分析には逆空間の情報が必須であるため小角電子回折法を用いた。小角電子回折法で実現される長距離のカメラ長を用いることで、一般的に10-2~10-3 rad程度である結晶格子によるBragg回折角に対し、10-4~10-6 radの微小偏向角を有する磁気偏向や磁気テクスチャの長周期秩序構造を逆空間で定量的手法に観測・解析できる。こうした実空間および逆空間の磁化分布観測手法を有効に用いることにより、ヘリカル磁性体FeGeや強相関電子系マンガン酸化物における磁気テクスチャの直接観察を行うとともに、磁気テクスチャ磁化分布解析を行った。さらに、バルク単結晶試料合成や物性測定、TEM観察を行い、磁気テクスチャの磁化分布、外部磁場および温度に対する応答、結晶方位依存性などから磁気テクスチャの形成機構を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、無孔位相板を用いた位相差顕微鏡法を磁気スキルミオンの磁化分布解析に応用した。位相差顕微鏡法によって得られる位相像では、弱位相物体近似の成り立つ範囲において、像の強度と試料磁化が誘起する電子波の位相差が線形関係であること示した。この関係から、Aharonov-Bohm効果を利用することで位相像から磁化分布像を取得することができる。小角電子回折法の光学系を参考に、可変磁場下での観察を可能にする光学系を構築した。無孔位相板として用いたカーボン薄膜を制限視野絞りの位置に設置し、コンデンサーレンズを用いて位相板上にクロスオーバーを形成させた。対物レンズは試料への磁場印加装置として用いた。本光学系を用いFeGeにおける磁気スキルミオンを観察したところ、スキルミオンの位相像を取得し、像強度を微分することで磁化分布像を取得することに成功した。位相差顕微鏡法によって得られた磁化分布から、スキルミオンでは正弦波的に面内磁化の大きさが変調することが明らかになった。また、位相差顕微鏡法により、磁気テクスチャの磁化分布を定量的に解析することが可能であることを示唆することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに構築してきた小角電子回折法、ローレンツ顕微鏡法および位相差顕微鏡を用いて、ペロブスカイト型マンガン酸化物やZ型ヘキサフェライト(Sr3Co2Fe24O41)での磁気テクスチャ構造について調べていく。具体的には以下の通りである。 (1) 巨大磁気抵抗物質であるペロブスカイト型マンガン酸化物La1-xSrxMnO3(x=0.175)の斜方晶構造をもつ強磁性金属相においてナノスケールのストライプ磁区構造が形成されており、さらにストライプ磁区に対して垂直磁場を印加することにより、磁気渦構造が出現し、6回対称をもつ格子構造を形成することを見出した。そこで、この磁気渦構造の形成過程の実空間・逆空間観察を行う。また、ホール濃度依存性について調べ、磁気渦構造に関する磁場-温度-組成相図を作製する。 ・La1-xSrxMnO3(0<x<0.30)における強磁性絶縁体状態(単斜晶構造;0.1<x<0.13)、強磁性金属状態(斜方晶構造;0.15<x<0.18)および強磁性金属状態(菱面体構造;0.18<x)での磁気渦構造等の非自明な高次構造の観察と、磁気渦構造に対する磁場-温度-組成相図の作製。 (2) らせん磁性体としては磁気転移点が300 Kよりも高く、電気磁気係数が大きい(~2.5×10-10 s/m)Z型ヘキサフェライト(Sr3Co2Fe24O41)を用いて、らせん磁性相と強誘電相の共存する磁場-温度-組成相図の作製を行う。また、らせん磁性相でのローレンツTEM 観察および小角電子回折実験により、実空間・逆空間観察を通して、らせん磁性相の磁気的微細構造を明らかにしていく。
|