研究課題/領域番号 |
16H03835
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
鈴木 哲 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主任研究員 (00393744)
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研究分担者 |
関根 佳明 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 研究主任 (70393783)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / プラズモン / アンテナ / メタマテリアル |
研究実績の概要 |
グラフェンマイクロパタンのテラヘルツ領域のプラズモン共鳴はもっぱら透過スペクトルの測定が行われていたが、我々は透過に加えて反射スペクトルの測定に初めて成功した。これによって吸収スペクトルも実験的に求めることが可能になった。本研究の目的はグラフェンによる指向性アンテナの実現であるが、相反性により透過スペクトルに指向性(光学的異方性)は現れない。指向性の実験的観測のためには反射・吸収スペクトルの測定が不可欠であり、本成果は大きな一歩であるといえる。これらの結果を論文にまとめ発表した。 またメタマテリアルの重要な構成要素である分割リング共振器をグラフェンを用いて作製することに挑戦した。我々はグラフェンでリングを作製するのではなく、グラフェンの穴でリングを作製する相補的構造を採用し、またイオンゲルをゲート電極として用いることによって、グラフェン分割リング共振器の共振周波数や振動子強度をゲート電圧で可変することにも成功した。これらの結果は共振周波数や光学特性が可変のアンテナやメタマテリアルをグラフェンを用いて作製できる可能性を示している。本結果を国内・国際会議で報告するとともに論文にまとめ投稿した。 更に本科研費でNTT物性科学基礎研究所に新たに時間分解型テラヘルツ分光システムとクライオスタットを導入し、FTIRを使用していたこれまでよりも長波長のスペクトルの測定と低温測定を可能にした。測定できる周波数の制約からこれまではグラフェンパタンを電子線リソグラフィーで作製する必要があったが、今後は光リソグラフィーで作製したパタンの光学測定が可能になることから研究の飛躍的進展が期待される。また本分光システムはマッピング計測も可能であるため大面積グラフェン試料の均一性評価にも威力を発揮すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科研費を用いて初年度に速やかに新たなテラヘルツ分光システムとクライオスタットを導入しそれらの立ち上げまで行うことができた。これまでは数テラヘルツ以上の周波数しか測定できなかったが今後は全テラヘルツ領域の測定が可能となる。測定レンジに合わせるため電子線リソグラフィーで長時間(2週間)かけて露光を行い一つのデバイスを作製していたが、今後は通常の光リソグラフィーを用いてデバイスを量産することが可能となることから研究の飛躍的な加速が期待される。更に低温測定によりこれまでより飛躍的にグラフェンのキャリア寿命を延ばすことができるためデバイスの高性能化も期待できる。 またグラフェンの穴を利用する相補的構造が機能することが実験的に明らかとなった。これによりグラフェンは電気的に連続に繋がった構造となるため、数百万個のパタンの共鳴周波数を同時にゲート電圧で制御することが可能となったことも大きな成果であるといえる。 また現在用いているSiC上グラフェンを更に大面積化するにはCVDグラフェンを用いる必要がある。またCVDグラフェンの基板として六方晶窒化ホウ素(h-BN)が有望視されている。我々は拡散・析出法という独自の簡便なh-BN成長法を提案してきたが、今年度はh-BN形成前にボロンの極薄膜が形成され、これが窒化されることでh-BNが生成することを明らかにした。今後とも成長機構の詳細の解明とともにこれをフィードバックしてh-BNの更なる高品質化を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者がNTT物性科学基礎研究所から兵庫県立大学高度産業科学技術研究所に異動した。しかし科研費でNTT物性科学基礎研究所に整備したテラヘルツ分光システムやクライオスタットは引き続き分担研究者とその同僚によって引き継がれることになる。これらの装置を利用した成果が次年度以降創出されていくと期待される。一方研究代表者は、今後主に兵庫県立大学の放射光施設ニュースバルを利用して研究を行うことになった。これによって放射光を利用した高度分析技術によるグラフェンプラズモニックデバイスの評価や、光化学反応を利用した新たな高品質グラフェン成長法の開発など、当初の計画には全くなかった新たな研究にも挑戦できる可能性が出てきた。ぜひ異動を機にこれらの研究も積極的に推進していきたいと考えている。
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