研究課題/領域番号 |
16H03838
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研究機関 | 北九州工業高等専門学校 |
研究代表者 |
長村 利彦 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 特命教授 (90117200)
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研究分担者 |
松田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (10344219)
竹原 健司 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 教授 (50249877)
川井 秀記 静岡大学, 工学部, 准教授 (80324341)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水溶液中のエネルギー上方変換 / DNA / 金ナノ粒子薄膜 / 局在表面プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
本年度は前年度の成果をアメリカ化学会英文誌ACS Biomaterials Science and Engineeringに公表するとともに、さらなる展開を目指して次のような点を検討した。 1)より長波長域で吸収および発光するカチオン性新規可視域増感剤および発光剤の合成の試み、2)金ナノ粒子薄膜上への前年度にDNA水溶液系で用いたカチオン性ポルフィリン増感剤とジフェニルアントラセン誘導体発光剤を固定化したDNA超薄膜の構成と定常発光挙動速定、3)そのような系で532 nmパルスレーザー励起による増感剤の燐光ダイナミクス測定。 具体的には、緑色を吸収する水溶性ポルフィリンと青色蛍光を示す水溶性ジフェニルアントラセン誘導体に加えて、赤色を吸収する水溶性ベンゾポルフィリン誘導体の前駆体と橙色蛍光を示すジピリジルビニルアントラセン誘導体を合成した。溶液プラズマ放電で作成した金ナノ粒子分散水溶液を濃縮しガラス基板に形成した薄膜上に増感剤および発光剤固定化DNA超薄膜をスピンコートで成膜し、532nm半導体レーザー励起で燐光の表面プラズモン共鳴(LSPR)による増強を実現した。また532nmパルスレーザー励起による燐光の時間依存性測定でガラス基板上に比べて金ナノ粒子薄膜上で寿命が短くなったことから、LSPRによる増強機構として金属による輻射速度定数の増加が燐光増強に寄与したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の概要に述べたように、本年度計画のうち増感剤の水溶性ベンゾポルフィリン誘導体はこれまで報告がなく、色々試みて本年度中には完成できなかったが、目的化合物合成の見通しはたった。それと組み合わせて発光剤としてもちいる予定のジピリジルビニルアントラセン誘導体は4-ピリジニウム型が合成できたが、4-ピリジニウム基が電子アクプターとして分子内電子移動消光が起きるためか蛍光がかなり弱かった。この結果をもとに、カチオン性置換基構造の改良を進めている。金ナノ粒子薄膜上に形成した増感剤および発光剤固定化DNA超薄膜の532nm半導体レーザー励起により増感剤の燐光は大幅に増強された。パルスレーザー励起による燐光のダイナミクス測定から、金ナノ粒子薄膜上ではガラス基板上に比べて燐光寿命が短くなっていることがわかった。すなわち金属による輻射速度定数の増加が燐光増強に寄与したと考えられる。しかしアップコンバージョン発光は固体薄膜系ではまだ観測できていない。これは膜厚が100 nm以下という超薄膜であるため励起光の吸収が非常に小さいこと、いずれもカチオンである増感剤および発光剤によるアップコンバージョン発光効率がアメリカ化学会英文誌で報告したように中性の増感剤および発光剤によるそれに比べてかなり小さいことが原因と考えられる。これに対しては、研究代表者らの経験に基づいて次節のような対応を行う。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度ではこれまでの結果に基づいて、水溶性ベンゾポルフィリン誘導体増感剤およびπ電子系拡張型発光剤合成方法の改良および、三重結合でカチオン性芳香族基を結合したアントラセン誘導体発光剤の新規合成を行い、より長波長側の赤色励起による橙色発光のアップコンバージョンをDNA水溶液系で構築する。超薄膜系のアップコンバージョン発光増強については、金属ナノ粒子と増感剤および発光剤固定化DNAを別々に成膜するこれまの方法に加えて、それらを同じ層で作製してLSPRの効果を膜に垂直方向と膜内方向で比較すること、さらには銀ナノ薄膜上に色素固定化DNA超薄膜を形成した系で特定の入射角での表面プラズモン共鳴(SPR)によるDNA超薄膜中色素の蛍光が2桁増強されたという本研究者らの実績などを超薄膜系のアップコンバージョンに応用することも含めて検討を続ける。
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