研究課題/領域番号 |
16H03850
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 義茂 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50344437)
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研究分担者 |
三輪 真嗣 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20609698)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 磁界センサー / トンネル磁気抵抗素子 / 微小センサー / 1/fノイズ / 非線形マグノイズ / 二重共鳴 |
研究実績の概要 |
ナノ磁性体に特有のコヒーレントな磁化ダイナミクスを利用することにより、理論限界に迫る磁界感度を持つ磁気センサーを実現する。このことにより磁壁に起因する1/fノイズが抑制され高S/N測定が可能となると期待される。さらに、磁化の非線形ダイナミクスに起因する非線形マグノイズを磁気ポテンシャルの対称性の制御により抑制することにより理想的な感度の実現を目指す。また、ナノ磁性体とラジカル分子が持つ孤立スピンとの二重共鳴を検出することを試みる。 本研究は大きく3つのテーマに分かれる。1つめは単一高感度センサー(MTJ)の開発であり、2つめはセンサーの集積化による検出感度の増大の実証、3つめは、単一センサーと外部スピン系の二重共鳴の検出である。本研究に必要な単一MTJについて素子サイズ、膜厚と磁気異方性の最適化を行う。センサーの集積化に当たっては素子数と感度の関係を明らかにすることにより集積化による感度限界を明らかにすることを目的とする。 この研究の成果は、心磁計・脳磁計などの既存の機器の簡便化をもたらすとともに、低磁場顕微MRIなどの新しい応用を生む可能性がある。さらには化学、生物物理、医療、創薬などの他分野に波及するものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は本研究必要なトンネル磁気抵抗素子の開発とその基本特性の評価およびノイズの測定に必要な測定系の構築を行った。トンネル磁気抵抗素子は連携研究機関である産業技術総合研究所により作製された。素子にはFeBフリー層を利用し、その膜厚とMgO裏打ち層により磁気異方性を制御した。具体的にはFeBフリー層の膜厚を1.7 nmとし、MgO裏打ち層1 nmを設けた。素子は、直径80 nm~400 nmの円形である。 まず、基本的磁気特性の評価から垂直磁気異方性磁界が-50 mT程度に制御されていることを確認した。すなわち、垂直方向に約50 mTの外部磁界を印加すると磁化はほぼ垂直を向き、外部からの磁界などの外乱に対して大きな応答をすることが期待できる。次に、この状態におけるノイズのスペクトルの解析を行った。上記の状態に素子を持って行った時のサブGHz領域におけるノイズは磁気ノイズが支配的となることを確認した。スペクトル測定から磁気共鳴周波数は200 MHzから1.5 GHz程度の間で外部磁場によって制御可能であった。熱的に励起された強磁性共鳴のピーク強度は例えば5 nW程度と非常に大きなものとなった。理論計算との比較の結果、この強度は理想的なマクロスピン状態における磁気的な熱ノイズの強度とよく一致した。このことは磁化が外部の影響を非常に強く受ける理想的な状態が実現していることを示している。 次に、外部からの高周波電流の注入に対する応答の評価を行うことにより素子の磁気ダイナミクスの評価を詳細に行った。その結果、電気的な刺激に対しても非常に大きな応答を示すことが確認できた。 以上の素子評価とともに磁界感度測定用のシールドボックスを入手するなど、H28年の研究はほぼ予定通り進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
以上、H28年度の研究がほぼ予定通り進捗したことからH29年度以降も計画通り研究を進めることを目指している。その一方で、二重共鳴の研究については本テーマの採択時の予算査定額が低かったことから十分な予算措置ができない見込みである。そこで、ある程度のテーマの縮小を行ったうえでごく基本的な研究を行うことを考えている。以下に各項目の計画を示す。 1. 単一高感度センサーの開発 (a)面直磁化型センサー:H28年度にFeB/MgO/CoFeB接合で、FeB磁化自由層の磁気異方性を膜面直に磁化が向く直前の値とすることにより弱い外部磁界で磁化を垂直に向けられるようにした素子を開発した。既にこの素子において共鳴周波数を1GHz以下にできることなどを確認した。そこで、H29年度はその前半までにこの素子において1/fノイズの測定を行いその大きさから磁化のコヒーレントな運動の程度を見積もる。さらに、測定感度を上げることにより非線形マグノイズを測定する。対称性の制御により非線形マグノイズの抑制を試みる。 (b)面内磁化型センサー:この素子についてもH28年度に作製を行った。H29年度は1/fノイズの測定を行いその大きさから磁化のコヒーレントな運動の程度を見積もる。大きさ依存性の測定から最大感度を見積もる。 2. センサーの集積化による検出感度の増大 センサーの熱ノイズがアンプの入力ノイズを下回らない範囲でセンサーを直並列に接続することにより無相関な熱ノイズをある程度除去し, S/Nの向上を試みる。この研究はH29年度の後半に開始する。
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