研究課題
最先端スピン偏極角度分解光電子分光の最も重要なポイントは、初段の光電子顕微鏡の調整と最終段に近い2次元スピン鏡の部分である。平成28年度はドイツユーリッヒ研究所滞在中にイタリア放射光施設ELETTRAにおいてW(001)スピン鏡を用いたFe/Au系のスピン偏極2次元波数空間同時測定Momentum顕微分光(以下SP-2D-MMと略)を行い予備的なデーター取得に成功した。しかしながらW(001)表面は時間と共に仕事関数が変化するので測定後のデーター処理には多大な解析作業を要請される。一方、W(001)に代わってAuを蒸着し適切にアニールしたAu/Ir(OO1)面では寿命2時間程度のW(001)とは異なり、寿命数ヶ月が実現できており仕事関数は変化しないために解析は容易である。我々は研究者間で話題になっているトポロジカル近藤絶縁体の可能性のあるSmB6(100)面に対して、制御したスパッターとアニーリングで清浄かつSmの終端面を再現性良く得られる手法を確立し、2D-MMならびにSP-2D-MMに挑戦し興味ある結果を得た。また表面電子状態解明の為に相補的な走査トンネル分光を行い相互矛盾のない結果を得ている。一方、この手法の適用不可能な絶縁体では磁場中での軟X線共鳴非弾性X線散乱以下SX-RIXSと略)でFermi準位近傍の電子状態解明が可能との確信の上で、申請代表者自身の設計組み立てによる磁場印加装置での実験を遷移金属酸化物に対して行い相転移による電子状態変化に加えて円偏光励起による磁気円2色性測定に成功し、世界初の実験データーを得るのに成功した。これらは近く論文発表を予定している。
2: おおむね順調に進展している
SP-2D-ARPESについては長期的には大型予算で日本への導入を図るが、目下は世界中でも唯一ELETTRAにユーリッヒ研究所が持つ装置しか利用が出来ない。そのためユーリッヒ研究所に数桁upgradeした装置を立ち上げるべく筆者も参加し作業を進めている。そのknowhowは日独共同研究の形で本科研費が終了後直ちに日本で予算措置を行った計画に生かす予定である。一方SXRIXSについては本計画とは独立に検出器部分の腕を回す計画が東京大学予算で措置されたので、本計画で導入の装置と組み合わせて今後世界topのデーターを出し続けられると期待している。
2次元スピン鏡Au/Ir(001)で2πステラジアンに至る波数空間の100x100点のスピンを同時測定することで、これ迄わが国が世界を先導しているFe-Oスピン検出器によるシングルチャネルスピン検出の1万倍の効率でのスピン検出が可能である。さらに初段に光電子顕微鏡(以下PEEMと略)、次段にS字配置の2台の静電半球電子エネルギー分析器を用いて収差補正をしていることで、入射スリットで2πステラジアン中の約1000分の1しか取り込めていない通常の1台の静電半球型電子エネルギー分析器の約3桁高い効率での測定が出来るので、全体として現状の世界最高性能のスピン分解角度分解光電子分光の、7桁上の効率でのスピン分解角度分解光電子分光をユーリッヒで継続し、そのknowhowの全てを年度末には日本に持ち帰る。国内では、Ir単結晶の処理方法等をupgradeする。また光源についての見当をこの1年間継続議論の予定である。SXRIXSについては磁場による相転移のほか電場による相転移実験を行い理論と協業して占有・非占有電子帯の分散を議論できるまでの実験データー取得に挑戦する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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