研究課題/領域番号 |
16H03853
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 将光 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70517854)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピン軌道相互作用 / 磁気光学効果 / 薄膜ヘテロ構造 |
研究実績の概要 |
重い遷移金属やヘテロ構造の界面では大きなスピン軌道相互作用が発現し、スピンホール効果やジャロシンスキー守谷相互作用などの「スピン軌道効果」を誘起する。これらの現象を利用して、効率的な電流駆動磁化制御技術の研究が盛んに行われているが、デバイス応用に向けて各効果の発現機構の解明が重要な課題となっている。これまで確立された評価技術では限界があるため、本研究では様々なスピン軌道効果とそれらの相関を体系的に評価できる光解析技術を新たに開発する。 本年度はスピン軌道トルクやスピン蓄積を測定できる磁気光学測定装置の設計を行った。また、薄膜ヘテロ構造の光解析技術を構築するための知見を得るために、磁気光学スペクトル測定を利用して、薄膜ヘテロ構造のKerr回転角や楕円率などの磁気光学応答を調べた。シリコン上に熱酸化膜(SiO2)を堆積した基板に、厚さ1 nmの強磁性超薄膜とキャップ層を成膜し、可視光領域でのKerr回転角と楕円率を測定した。その結果、シリコン基板上の酸化膜において多重反射が起こり、光の干渉効果によって磁気光学応答が変調されることがわかった。特に、1 nmの強磁性超薄膜に可視光領域の光を照射してもほとんどの光は透過してしまうため、通常Kerr 効果はほとんど観測できないが、基板の熱酸化膜における多重反射を利用することで、Kerr 回転角や楕円率を増幅し、そのスペクトル測定を精度良く行えることがわかった。 これらの結果から、基板の酸化膜の膜厚を調整することで大きな磁気光学信号を得ることができるため、今後のスピン蓄積などの微小信号測定に対しては有効である。また、今年度は増幅した磁気光学効果を用いて磁区観察を行い、静磁結合した磁壁が効率よく電流駆動できること明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スピン軌道トルクやスピン蓄積を測定するための装置確立の過程で、磁気光学効果が基板の影響を強く受けることがわかり、装置設計の再検討を行う必要が生じたため、進捗がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
光解析技術を利用して、ヘテロ構造におけるスピン軌道トルクや非磁性金属におけるスピンホール蓄積を評価する手法を確立して、様々なスピン軌道効果とそれらの相関を体系的に評価できる光解析技術を新たに開発する。昨年度までに基板などが磁気光学信号に与える影響を調べることができたので、その知見を生かして光解析技術を確立する。
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