研究実績の概要 |
本研究では、現存する超伝導体の中で最も高い134Kに至る超伝導転移温度(Tc)を有する水銀(Hg)系銅酸化物超伝導体HgBa2Can-1CunO2n+2+δ(n=1,2,3) の純良単結晶育成技術を確立すること、更に、得られた単結晶試料の基礎物性評価を行うことによって、同物質の示す高いTcの原因を探るとともに、その特徴を活かした新たな超伝導応用の可能性を切り拓くことをその目的とする。同物質は、構成要素である水銀(Hg)の毒性と高い蒸気圧のために、1994年の発見以来、系統的な研究はほぼ手つかずであった。本研究では、申請者が鉄ヒ素系高温超伝導体の単結晶育成において開発した、超高圧下での単結晶育成およびSUS封管法により単結晶育成を試みた。 様々な結晶育成条件を試み、その結果、(1)出発原料として高純度のBaOおよびCaOを調製し、(2)n=3についてはフラックスとしてBaF2を用い、(3)耐圧のためにSUSと石英ガラス管の2重封管を施し、更に、(4)Hgの一部をReで置換することによって、Hgの蒸気圧に耐え得る長時間の育成が可能となり、n=1およびn=3の1mm2サイズの単結晶育成に成功を収めた。得られたTcはそれぞれ92K、135Kにまで至った。又、n=1試料については、ポストアニールを施すことでキャリア濃度を連続的に変化させることが可能であることを確認した。両系において、電気抵抗測定、および磁化率測定からその超伝導特性を抽出した。特に後者の測定により、臨界電流密度の定量評価を行った。 又、関連する結果として、Bi系高温超伝導体における電子状態の詳細を光電子分光によって精査し、従来は無視されていたスピンー軌道相互作用が銅酸化物高温超伝導体においても存在していることを明らかにした。
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