研究課題/領域番号 |
16H03859
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柿本 浩一 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (90291509)
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研究分担者 |
西澤 伸一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 省エネルギー研究部門, 上級主任研究員 (40267414)
中野 智 九州大学, 応用力学研究所, 技術専門職員 (80423557)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 結晶工学 |
研究実績の概要 |
本提案では、40年来不可能であったSiC単結晶育成炉内の化学種の濃度分布を定量的に解析することが可能となり、さらにはこのデータから結晶成長の過飽和度を算出することができる方法を提案した。同時に、育成結晶表面の表面エネルギーを第一原理計算により定量的に議論することにより、いかなる結晶多形が成長表面で安定に核生成するかを、2次元核生成理論を用いて定量的に求めることが可能となった。すなわち、SiC単結晶の多形である4H, 15R, 6H, 3Cのいずれの結晶多形が優先的に成長するかが定量的に予測でき、これを実験により実証することが可能となった。結晶欠陥に関しては、従来なされていなかった結晶内の3次元転位分布解析が可能になった。 結晶育成炉内におけるSi, Si2C, SiC2濃度解析では、圧縮性ガス流体の解析手法とともにキャリアガスとSi, Si2C, SiC2との相互作用の解析が可能となり、化学量論的組成制御に重要なこの解析法を、今まで九州大学で開発してきたマルチレベルフィジックスシミュレーション数値解析コードへ組み込みが終了した。これにより、核生成過程を支配する結晶成長の過飽和度を定量的に計算することが可能となった。さらに、第一原理計算を用いた原子レベルの表面エネルギーの値をマクロな解析に適用し、原子レベルとマクロレベルの解析を融合し、新規に結晶多形を予測することが可能な計算コードを開発した。 さらに不純物濃度制御型高周波加熱法と、今回開発するSiC昇華法結晶育成装置解析コードを用いて、結晶表面エネルギーを時間に対して変化させ、一定の核生成エネルギー下で成長可能な結晶育成炉の設計を行い、一定の結晶多形の結晶成長が可能な結晶成長法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
九大所有のSiC昇華法の結晶育成炉を研究対象に設定し、育成炉内の温度場、Si, Si2C, SiC2の濃度を求めることが可能な計算コードを開発した。これにより、昇華法によるSiC結晶育成の研究開発開始以来約40年間達成できなかった化学量論的組成制御が可能な結晶育成法をマルチレベルフィジックスシミュレーションにより可能となった。最初に、結晶多形の制御に必要な原料の化学量論的組成の定量的な解析法を確立した。具体的には、Si, Si2C, SiC2の各成分濃度は強い温度依存性を示しており、これらの効果をすべて取り入れて、4H, 15R, 6H , 3Cのような結晶多形の発生を決定する結晶成長の過飽和度を定量的に求めることを可能とした。 さらに、化学組成解析をSiC2,Si2Cの各成分にまで拡大し、かつ結晶成長プロセス全体の解析が可能なコード開発を終了した。このために、計算量の増加に対応した計算機の能力、すなわち大規模計算に必須なメモリー空間と超高速のCPUを搭載したクラスター計算機を使用した。さらに、昇華法ではキャリアガスの圧力が0.1-50 Torr程度と比較的小さいために、希薄流体解析が必要となったが、このためのソルバーと特殊なアルゴリズムの開発を行った。
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今後の研究の推進方策 |
化学量論的組成の制御可能なSiC結晶育成方法を確立する。具体的には、すでに開発した昇華法原料濃度分布解析手法を用いて、化学量論的組成比が1に近い結晶、すなわちSi:Cの原子数比が1に近い結晶の育成に必要な炉内温度分布、特に原料を充てんするるつぼと種結晶の周囲の温度分布を解析により求める。 次に、この不純物濃度制御が可能な不純物導入装置の形状を決定し、不純物濃度制御型高周波加熱装置に装填し、ガス分析を行い、化学量論的組成を制御することが可能な昇華法を確立する。ここで確立した結晶育成方法を用いてSiC結晶を育成し、九州大学に現有する強力X線トポグラフ装置等を用いて、化学量論的組成に敏感な格子定数を確認する。これにより、本提案の有効性を確認し、結晶の電気的特性を左右する化学量論的組成が1に近い結晶の育成が可能であることを確認する。
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