本研究では、InNが有する高いゼーベック係数に着目し、これを熱電変換素子として応用するための可能性を追求してきた。今年度は、p型InNを実現するための最重要課題として、InNの貫通転位密度低減にさらに取り組んだ。これまでの成果において、RF-MBE法を用いたInN成長中の窒素プラズマ照射による表面改質を利用して、転位密度を低減できる可能性を示し、窒素プラズマ照射の条件や膜構造の最適化を検討してきた。これらの条件を活用し、窒素プラズマ照射を導入した厚膜InN成長を検討した。1時間のInN成長と1時間の窒素プラズマ照射による表面改質を7回繰り返し、約2um厚さのInNを成長して、転位密度低減効果を検証した。その結果、貫通転位密度と相関の高いX線回折半値幅はこれまでで最も小さい値(302で約1780arcsec)を示し、転位密度低減の効果が確認できた。一方、電気的特性については大きな変化はなく、窒素プラズマ照射時の欠陥導入が影響していると考えられる。そこで、成長中のInN表面ではなく、成長をスタートする基板であるGaNテンプレートに窒素プラズマ照射によって表面改質を行い、同様な転位低減効果を得られるかどうか検討した。その結果、窒素プラズマ照射GaNテンプレート上成長InNにおいても転位低減の効果は同様に確認できたが、電気的特性の向上にはつながっておらず、成長界面の解析などさらなる検討が必要となった。これら得られたInNへのMgドーピングによるp型化の検討も進めたが、貫通転位密度の低減効果よりも電気的特性、特にキャリア濃度低減に対する顕著な効果が得られていないため、当初目的とした低抵抗のp型伝導実現には至らなかった。しかしながら、InNの最重要課題である貫通転位密度低減に向けた新たなアプローチに対して本研究課題を通じて価値ある知見を得ることができた。
|