研究課題/領域番号 |
16H03863
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米田 忠弘 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30312234)
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研究分担者 |
道祖尾 恭之 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10375165)
高岡 毅 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (90261479)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / スピン検出 / 欠陥準位 / スピンラベル |
研究実績の概要 |
本基盤研究の中心は酸化膜表面上での触媒化学反応をスピンをラベルとして明らかにしようとする実験である。そこでは走査トンネル分光を用いた原子レベルでスピンを検知する精度が鍵となる。特に再現性の良いスピン偏極度を持つ探針の評価法の開発が必須である。そのことを鑑み、本年度は金(111)表面に層状成長したコバルトの2層膜用いて、それをスピン偏極STMの標準試料として用いる技術を開発した。コバルトで被覆された探針を用い、外部磁場を変化させながらトンネルコンダクタンスを測定することで、面外に容易軸を持ったコバルト2層膜の強磁性的な磁気ヒステリシス明瞭に検知されることを見出した。学術的に興味深い点として、コバルト島の大きさに依存した磁気異方性エネルギーを求めることが出来、その異方性エネルギーは銅を基板とする場合に比べて、金を基板とし場合大変高い値が得られることを初めて見出した。第一原理計算と組み合わせることで、軌道スピン軌道作用により大きな磁化反転エネルギーが得られることを世界に先駆けて示した。同時に、この手法が探針のスピン偏極度を評価する大変優れた手法であることを示した。この評価を用いることで安定した探針スピン偏極度を得られる技術である。この技術を用いて、酸化膜のスピン検知を行った。酸化膜表面としてFe(110)を用いた極薄酸化膜を形成し、その磁性の原子レベルでの振る舞いを調べた。Fe(110)表面上に形成されるFeO(111)を用い、その反強磁性的な挙動をスピン偏極STSで検知した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本基盤研究の目的は、走査トンネル分光を用いた原子レベルでスピンを検知する、技術を開発し、従来まで困難であった表面触媒反応をスピンをラベルとして用いることで新しい解析手法を開発しようとするものである。特にそのターゲットとして酸化物セリア(CeO2)に代表される「還元される酸化物」は注目される対象である。それらは、容易に酸素欠陥を生じる性質を持ち、欠陥サイト周辺での特徴ある触媒反応に注目が集まる。これらの機構を理解するためには、欠陥サイトでの化学反応を原子レベルで基礎的に理解すること必須である。本研究では原子レベルで化学分析が可能なSTMを用いた局所分光を手法として、これらの課題に取り組む。その中でもスピン検出手法は有望である。その手法であるスピン偏極トンネル分光は探針がスピン偏極電流を供給できることが必須条件となる。過去の報告においても、必ずしもその再現性は高くなく、いかに探針の特性を制御するかということが重要である。従って、H28年度には、確実に探針の評価ができるようにAu(111)上のCo島の磁気特性を計測し、学術的にも興味深い結果、すなわち基板を銅と金の場合を比べた場合、スピン・軌道相互作用が大きい金基板上で成長させたCo島が大きな磁気異方性を持つという結果を得た。この実験はまたCo島を標準試料として今後の探針の評価に最も適した対象として用いることが可能であることを示すことが出来た。H28年度には酸化物のスピンとしてFe(110)の極薄酸化膜の磁性を調べたが、その酸化膜はいろいろなフェーズを持ち、また反強磁性を示すなど興味深い磁気物性を検出する能力を持つことを示した。これらの技術は、原子レベルでスピン状態を検出する技術を利用して、欠陥での化学反応素過程を解明するために不可欠の技術であり、それらが達成できたことで研究は順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H29には前年度までに整備したスピン偏極トンネル分光とスピンによって引き起こされる近藤効果をツールとして、表面上での触媒活性をスピンで検出する手法に進める。セリア欠陥に関する電子状態・スピン状態の測定から開始する。もっとも単純なモデルでは酸素欠陥の最近接セリウム原子が4+から3+に変化する。このとき4+状態においてスピンは存在しないが、3+状態では4f電子がスピンを持つ。前述のとおり、この余剰電荷は広範囲に広がっているとの報告もあるので、スピン分光の空間マッピングの測定により、スピンの物性から欠陥の物性を探ろうとする。また、酸素分圧と基盤加熱温度をパラメターとして加熱処理をした後に、STMで直接に欠陥の形状と個数を測定することによって、欠陥生成の化学ポテンシャルに関する情報が得られ、欠陥生成エネルギーを決定することが出来る。また欠陥の集合体の形状を制御して創りだすことも可能になると考える。 次にこの制御された欠陥における触媒反応の素過程についてスピン局所分光を中心として機構解明を行う。酸素欠陥を制御した原子レベルでのセリアの平坦表面は酸素分圧と加熱温度を調整して作成する。その欠陥に気体分子を吸着させ、スピンをラベルとして表面での触媒反応をモニターする。一酸化窒素(NO)ガスを用いて開始する。NO分子は真空中ではπ軌道に不対スピンを持つが、表面吸着において保たれるのであれば、近藤効果やスピン偏極トンネル分光でその吸着状態を詳しく調べる。このことで単一分でのスピン分解が可能となる。続いて、欠陥における触媒化学反応を原子レベルで精密に測定を行うために、さらに酸素や一酸化炭素分子を今日吸着させ、原子レベルのスピン挙動検知を通じて、酸化膜表面の酸素欠陥の触媒反応をプローブする新しい測定手法開発を行う。
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