研究課題/領域番号 |
16H03865
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小野 倫也 筑波大学, 計算科学研究センター, 准教授 (80335372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 輸送特性 / デバイス界面 / スピン |
研究実績の概要 |
界面電子状態の理解の深化と次世代デバイスとして期待されているスピントロニクスデバイスの高機能化・産業化に貢献すべく、電子論からデバイス用界面の機能予測ができる大規模高精度第一原理計算手法の開発と、これを用いた界面機能予測シミュレーションを実施している。平成29年度と29年度予算を繰越した30年度は、28年度から引き続き、研究代表者が独自に開発を進めている実空間差分法に基づく第一原理電子状態・伝導特性計算コードRSPACEの改良に取り組んだ。電極自己エネルギーの計算は、第一原理電気伝導計算のボトルネックのひとつである。櫻井-杉浦法のように部分的に固有解を求める方法を用いて電極自己エネルギーを計算する場合、自己エネルギーの要素に急峻なエバネッセント波まで取り込む必要がある。しかし、周回積分時に使用する疎行列を係数行列とする連立方程式ソルバの計算コストは、ブロッホ係数の絶対値の対数に対し、2乗に比例して増大することが問題であった。本研究課題では、周回積分の積分領域を複素平面上でリング状に分割する方法を開発した。この方法により、緩やかなエバネッセント波に対しては、少ない計算コストで計算できるため、従来法に対して最大で6倍の高速化が可能になった。この方法を用いて、カーボンナノチューブの複素バンド構造を計算し、改良法の計算効率と精度の高さを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算機の仕様変更や計算方法の有用性をアピールするアプリケーションの変更が生じたため、平成28年度、29年度に繰越しが発生したが、影響は軽微である。当初予定していた計算手法の開発と計算コードの改良を29年度中に完了し、有用性をアピールする論文も出版されている。30年度以降は、計画通り開発・改良したRSPACEを用いた高機能界面のデザインに進めることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度からは、開発した実空間差分法に基づく第一原理電子状態計算・伝導特性計算コードRSPACEを用いた物質・デバイスデザインに軸足を置く。分子デバイスでは電極表面での接合状態が伝導特性に影響することはよく知られている事実であるが、どのような接合状態が最も機能的に優れているかは明らかではない。そのため、分子デバイスの実用化には接合部分を含めた量子輸送特性の制御が不可欠である。本課題では、実験グループと協力して、trimethylenedipyridineと、この分子が重合したpolyvinylpyridineの分子架橋系の電気伝導特性を調べる。電極/分子界面における原子構造を、実験的に予想される架橋構造をもとに第一原理計算により決定し、重合による架橋系の電子状態と伝導特性への影響を調べる。また、高機能トンネル磁気接合素子探索のシミュレーションとして、グラフェンやh-BNのような2次元材料をトンネル障壁に用いた素子の機能予測を行う。さらに、平成31年度は、既存の2次元材料ではなく、シミュレーションにより、新しい2次元材料を探索し、発見した材料を用いたデバイスのスピン輸送特性の予測・解析を行う。
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