界面電子状態の理解の深化と次世代デバイスとして期待されているスピントロニクスデバイスの高機能化・産業化に貢献すべく、電子論からデバイス用界面の機能予測ができる大規模高精度第一原理計算手法の開発とこれを用いた界面機能予測シミュレーションを実施している。平成31年度(令和1年度)から令和3年度は、これまで開発・改良を続けてきた第一原理伝導特性計算コードRSPACEのさらなる高速化とRSPACEを用いたナノ構造の伝導特性評価を実施した。 RSPACEの高速化においては、散乱領域部のグリーン関数計算に要する計算コストをモデルサイズの2乗から1乗に比例させる方法を開発し、計算コストの削減に成功した。開発したコードを用いて、19万原子超からなる多層カーボンナノチューブの伝導特性計算を行った。このモデルサイズは、第一原理伝導特性計算のなかでは世界最大レベルである。不純物が規則的にドープされた多層ナノチューブは透過スペクトルがスパイキーになるのに対し、ランダムにドープされた多層ナノチューブはなだらかになることが分かった。 また、RSPACEを用いたナノ構造の伝導特性評価では、グラフェンブリスターのバレーフィルターとしての性能評価を行った。電子の軌道を情報判別に用いたバレートロニクスデバイスは、スピントロニクスデバイスに次ぐ新たなデバイス素子として期待されており、具体的応用のために電子の軌道(バレー)を分離する素子が必要とされている。グラフェンではKバレーとK’バレーの電子がこれに当たる。本研究では、ブリスターの原子構造が伝導方向に対して対称性がある場合に、ブリスターがフィルター素子として機能することを明らかにした。
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