研究課題/領域番号 |
16H03867
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小澤 健一 東京工業大学, 理学院, 助教 (00282822)
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研究分担者 |
松田 巌 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00343103)
山本 達 東京大学, 物性研究所, 助教 (50554705)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 太陽電池 / 酸化物エレクトロニクス / 光励起キャリア / キャリアダイナミクス / 時間分解光電子分光 / シンクロトロン放射光 |
研究実績の概要 |
元素選択的に表面あるいは異種材料接合界面のポテンシャル変化を追跡できる新しい実験手法「レーザーポンプ・放射光プローブ時間分解軟X線光電子分光(TRXPS)」により,複雑な構造を持つ有機太陽電池材料における光励起キャリアの発生から消失までのプロセスを支配する物理を明らかにすることを目的とする。 平成28年度は,測定法の高度化と有機太陽電池の構成要素の一部であるフラーレン/二酸化チタン界面でのキャリア挙動の検証を行った。高度化では,ポンプ光レーザーのパルス繰返し周波数を従来の1 kHzから200 kHzとした。これにより測定は200倍高速化され,同じ実験時間で比べると,従来の10 meV以上から10 meV以下のオーダーでポテンシャル変化による光電子スペクトルのエネルギーシフトを議論できるようになった。 高度化TRXPSシステムを用いてフラーレン/二酸化チタン界面における光励起キャリアダイナミクスを検証した。実験では,3.06 eVのポンプレーザーを照射して励起状態を作り出し,励起からの時間経過に伴うC 1s,Ti 2p内殻準位スペクトルの変化からキャリア挙動を推定した。その結果,励起直後(0.1 ns経過後)にC 1s準位は15 meV低結合エネルギー側にシフトし,0.4 nsまでに基底状態に戻ることが明らかとなった。Ti 2p準位でも同様の過渡的なシフトを観測した。フラーレン/二酸化チタン接合界面の二酸化チタン側には電荷蓄積層が形成されている。観測された過渡的なシフトは,蓄積層内で発生したキャリアが電荷分離して下方バンドベンディングが緩和されたために誘起されたと考えられる。 また本年度は,フラーレンの他に金属フタロシアニンとルテニウム錯体が二酸化チタンと接合した系の,光電子分光による電子状態解析とケルビンプローブ法による紫外光照射に伴う表面光起電力発生の評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は,①TRXPSシステムの高度化,②太陽電池材料の作製,③太陽電池材料の評価,④TRXPS測定,⑤海外研究者との連携の5項目の実施計画を立てた。このうち,最初の3項目(TRXPSシステムの高度化,太陽電池材料の作製,太陽電池材料の評価)については,おおむね計画通りに行えた。一方TRXPS測定では,3種類の太陽電池材料(二酸化チタンを基板とし,フラーレン,金属フタロシアニン,ルテニウム錯体を薄膜成長させた系)を検証する計画であったが,割り当てられたシンクロトロン放射光ビームタイムの多くを高度化システムの調整に用いたために,フラーレン/二酸化チタン系のみを測定するにとどまった。海外研究者との連携では, 29年度のフランス放射光施設SoleilleでのTRXPS実験実施における技術的な課題について現地スタッフと協議している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,金属フタロシアニン/二酸化チタン,ルテニウム錯体/二酸化チタンの接合界面のTRXPS測定を行い,フラーレン系と併せて,有機半導体の違いにおける太陽電池発電効率の差異を議論できる情報を得る。実験は7月にSPring-8で行う予定である。 また,本年度から強誘電体酸化物であるチタン酸バリウム結晶を基板として用いた強誘電体有機太陽電池材料の検証実験を始める。強誘電体を用いることで,光励起キャリア(電子と正孔)の電荷分離が促進され,発電効率が向上することが期待されている。そこで本研究では,単結晶チタン酸バリウムを基板として,有機半導体(フラーレン,金属フタロシアニン,ルテニウム錯体)を接合させ,界面電子構造を光電子分光測定により決定する。これにより,チタン酸バリウムのバンドギャップと有機半導体の分子軌道エネルギーの位置関係を明らかにして,キャリア注入障壁等の情報を得る。また,紫外光照射に伴う表面光起電力の発生をケルビンプローブ法により評価して,励起キャリアの電荷分離効率を定性的に議論する。 基板のチタン酸バリウムは,ポーリング処理(分極処理)を施した状態と,キュリー温度(120℃)より高い温度にして分極がなくなった状態を制御することができる。そこで,界面電子状態と表面光起電力を二つの状態で比較することで,分極のキャリア挙動に及ぼす影響を評価する。
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