研究課題/領域番号 |
16H03870
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 圭 京都大学, 工学研究科, 准教授 (40335211)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 3次元フォースマッピング / 瞬時周波数法 / 固液界面物性 |
研究実績の概要 |
既存の原子間力顕微鏡(AFM)における探針走査領域近傍にナノピペット開口を配置できるように慣性駆動機構を新たに導入した。本装置を用いて、溶液環境のその場変化や分子の注入を行うことができるようになった。29年度は、マイカ基板および脂質二重膜上へストレプトアビジン(SA)を局所的に注入し、SAの2次元結晶の成長過程のその場観察に成功した。また、溶液中のカチオンによって成長様式が異なることを見出した。さらに、SAへ特異的に結合するビオチン分子を注入し、ビオチン結合によって誘起される構造変化計測を行ったところ、基板によってSAの吸着姿態が異なることに対応し、構造変化の様子も基板によって異なることが分かった。また、マイカ基板上のSAの2次元結晶の固液界面における3次元水和構造計測に成功した。 さらに、脂質二重膜上のSAの2次元結晶上へ両末端をビオチンで修飾したDNA分子を注入したところ、DNAの両末端がSAに結合し、二重らせん構造が基板に弱吸着して構造がゆらいでいる状況を作製することに成功した。 一方、Au(111)基板上に緻密な膜を事故死色的に形成することが知られているアルカンチオールの自己組織化単分子膜(SAM)を用いて、末端官能基と表面構造が異なるSAMの水和構造計測を行った。ヒドロキシル基で終端されたSAMにおいて、√3x√3R30°構造およびc(4×2)超格子構造が確認され、それぞれ表面構造を反映した水和構造が観察され、表面構造のわずかな違いが水和構造に違いをもたらすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
28年度には、カンチレバーの振動波形を高速デジタイザにより記録し、振動波形をデジタルフィルタ処理した後、ヒルベルト変換により解析信号を得て、解析信号の瞬時周波数を計算する、瞬時周波数法を開発した。また、29年度には、マイカ基板および脂質二重膜上へストレプトアビジン(SA)を局所的に注入し、SAの2次元結晶の成長過程のその場観察に成功し、成長様式やビオチン結合時の構造変化のその場計測に成功した。瞬時周波数法を用いたフォースマッピング法によりSAの2次元結晶等構造ゆらぎを有する試料系において水和構造計測を行う準備が整ってきており、研究は順調に進展している。 さらに、フォースマッピング法の高度化に関して、瞬時周波数法を有機薄膜トランジスタ(OTFT)のキャリアダイナミクス評価に応用した。OTFTの高性能化のためには、微視的スケールでの有機薄膜へのキャリア注入・排出機構を解明することが必要不可欠である。そのため、瞬時周波数法を用いてOTFTの時間分解静電気力顕微鏡 (tr-EFM) を開発し、OTFTにおけるキャリアの過渡応答の可視化に成功した。したがって、当初予定していた以上の成果が得られていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
瞬時周波数法を用いたフォースマッピング法により、SAの2次元結晶等の構造ゆらぎを有する試料系において水和構造計測を行っていく。また、溶液環境やSAの構造変化、もしくはSAMの末端官能基の違いに起因する水和構造の違いを計測し、構造ゆらぎと水和構造の相関に関する知見を得る。さらに、2次元(XY)走査中にカンチレバーの熱振動や非線形成分を記録することで水和構造を計測する手法を実装し、構造ゆらぎを有する系の水和構造計測への有用性について検討していく。
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