研究実績の概要 |
近年、卓越したキャリア・スピン輸送特性を有するグラフェンのスピントロニクスデバイスへの応用が注目されている。同応用の実現には、グラフェン内部の電子のスピン偏極状態やスピン偏極を伴う電子流(スピン流)を効果的に制御する技術が必要である。本研究では、グラフェンのスピン流制御に係る材料技術として、グラフェン/酸化物磁性体接合の磁気近接効果の探索と制御を目的に研究を行っている。 28年度には、ハーフメタル性の磁性電極材料であるLa0.7Sr0.3MnO3(LSMO)に着目し、グラフェン/LSMO接合の電子・スピン物性の研究を実施した。スピン偏極準安定ヘリウム原子脱励起分光法により接合に含まれるグラフェンの観測を行った結果、同接合では、グラフェンの伝導を担うπバンドの性質を損なうことなく、同バンドの電子にスピン偏極が生じていることが明らかになった。フェルミレベル近傍の電子(キャリア)のスピン偏極の向きはLSMOと平行で、スピン偏極の大きさは磁性金属表面に匹敵する大きさ(スピン偏極率:数10%程度)であることが分かった。本研究の結果、酸化物磁性体(LSMO)が原子レベルで近接することで、非磁性のグラフェンが磁性体に変化すること(磁気近接効果)が始めて明らかになった[S. Sakai et al., ACS Nano, ACS Nano 10, 7532 (2016)]。磁気近接効果のメカニズムについて理論面から考察を行い、グラフェン/LSMO界面を終端する酸素原子を介した間接交換相互作用によりグラフェンのπバンドがスピン分裂することが示された[1]。また、グラフェン/LSMO界面の原子構造が異なる場合のグラフェンの電子・スピン状態についても理論面からの予測結果を報告した[P. Avramov et al., J. Phys. Chem. A 121, 680 (2017)]。
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