研究課題/領域番号 |
16H03875
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
境 誠司 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (10354929)
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研究分担者 |
圓谷 志郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 主幹研究員(定常) (40549664)
李 松田 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 博士研究員(任常) (90805649)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / スピントロニクス / 界面 / ヘテロ構造 / 量子ビーム |
研究実績の概要 |
近年、卓越したスピン輸送性能を有するグラフェンのスピントロニクスへの応用が注目されている。同応用の実現には、グラフェン内部のスピン偏極キャリアの伝導(スピン流)を効果的に制御する技術が必要である。本研究では、グラフェンのスピン流制御を実現するための材料技術として、グラフェン/酸化物磁性体ヘテロ接合の磁気近接効果の探索と制御を目的に研究を行っている。 29年度には、スピントランジスタのゲート電極用の酸化物磁性体として、磁性絶縁体 のイットリウム鉄ガーネット(YIG)に着目し、単層グラフェン/YIGヘテロ構造の電子スピン物性の研究を実施した[S. Sakai et al., Adv. Funct. Mater. 1800462 (2018)]。スピン偏極準安定He原子脱励起分光(SPMDS)を用いてヘテロ構造に含まれるグラフェンの電子状態およびスピン偏極状態を調べた結果、グラフェンのディラックコーンに顕著なスピン分裂が存在することが明らかになった。SPMDS信号のスピン非対称率から、グラフェンのフェルミレベル近傍におけるキャリアのスピン偏極率は数10%程度に達することが示された。加えて、グラフェンの電子状態密度を示すSPMDSスペクトルから、グラフェンに固有なディラックコーンの形状が保たれていることも明らかになった。これと関連する知見として、グラフェン/YIGヘテロ接合をチャネルとするホール素子について、一般的なシリコン基板上のグラフェンと同程度のキャリア移動度が得られた。また、キャリアのスピン偏極を反映する異常ホール効果も観測された。以上の結果から、磁性絶縁体の近接効果を利用することで、グラフェンのスピン輸送特性を損なうことなくキャリアのスピン偏極を制御できることが明らかになった。本成果は、グラフェンスピントランジスタのゲート電極としての磁性物酸化体の有用性を示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェン/磁性絶縁体(YIG)ヘテロ構造におけるディラックコーンのスピン分極を解明し、材料科学分野のトップジャーナル(Advanced Functional Materials)に論文発表するなど顕著な成果が得られているため。
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今後の研究の推進方策 |
30年度には、グラフェン/酸化物磁性体ヘテロ構造の界面への異種原子のドーピングや酸化物磁性体の組成によるグラフェンの電子状態やスピン偏極の制御について、SPMDSや放射光メスバウアー分光による分光面からの追究を進める。併せて、グラフェンのキャリアのスピン偏極状態の制御についてこれまでに得られた基礎的成果[S. Sakai et al., ACS Nano 10, 7532 (2016), S. Sakai et al., Adv. Funct. Mater. 1800462 (2018)等]を基に、酸化物磁性体の磁気近接効果を利用したグラフェン磁気抵抗素子やスピントランジスタの開発に着手する。
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