研究実績の概要 |
近年、卓越したスピン輸送性能を有するグラフェンのスピントロニクスへの応用が注目されている。同応用の実現には、グラフェン内部のスピン偏極キャリアの伝導(スピン流)を効果的に制御する技術が必要である。本研究では、グラフェンのスピン流制御を実現するための材料技術として、グラフェン/酸化物磁性体ヘテロ接合の磁気近接効果の探索と制御を目的に研究を行った。 30年度には、単層グラフェンと磁性絶縁体のイットリウム鉄ガーネット(YIG)からなるヘテロ構造における磁気近接効果のスピン偏極準安定ヘリウムビーム脱励起分光(SPMDS)による観測結果(グラフェンディラックコーンへのスピン偏極の誘起現象)について論文発表を行った[S. Sakai et al., Adv. Funct. Mater. 28, 1800462 (2018), プレス発表を実施、日経産業新聞等に掲載]。同ヘテロ構造の特徴として、グラフェンのディラックコーンの電子状態を損なうことなく伝導電子に顕著なスピン偏極が誘起されることを明らかにした。本成果から磁性絶縁体のスピントランジスタのゲート電極への応用の可能性が明らかになった。さらに予想外の結果として、ハーフメタリックなホイスラー合金とグラフェンのヘテロ構造においても、上記と類似性のあるスピン偏極状態が実現され得ることが明らかになった。本成果は、31年度初頭の発表を目指して論文を執筆中である。その他にも、グラフェンなど二次元物質のスピン偏極状態の新たな観測手段として、スピン偏極陽電子ビームを用いた表面ポジトロニウム分光技術の開発に関与し、同分光法では初めてとなる磁性金属上のグラフェンおよび六方晶窒化ホウ素のスピンの観測に成功した[A. Miyashita et al., Phys. Rev. B 97, 195405 (2018)]。
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