研究課題/領域番号 |
16H03876
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
戸田 泰則 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00313106)
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研究分担者 |
土屋 聡 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80597633)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光物性 / 高温超伝導 / 時間分解分光 / 応用光学・量子光工学 / 特異点光学 / 軌道角運動量 |
研究実績の概要 |
本研究では、超短パルスポンププローブ分光で得られるキャリアダイナミクスを通して高温超伝導物性の主要課題である秩序形成機構および自発的対称性破れの起源と発現機構を明らかにする。従来のポンププローブ分光を上記目的に特化させるため、本研究では軌道角運動量を持つ光渦に着目し、光渦パルス励起によるキャリアの軌道角運動ダイナミクス観測を実現する。初年度は1)軌道角運動ダイナミクス励起・検出を目的としたポンププローブ分光測定系を典型的な高温超伝導試料であるBi2212に対して構築するとともに、キャリアダイナミクスに現れる対称性破れの本質解明のため、2)有機超伝導試料に対する偏光ポンププローブ分光を用いた系統的実験を実施した。1)に関して、キャリアの軌道角運動成分検出を実現するため、光渦パルスを用いたポンプ光の軌道角運動量変調を実現し、これに同期したプローブパルスの変化成分を軌道角運動量にもとづく横モード分解光学系を構築し、検出を行った。超伝導ギャップおよび擬ギャップ形成温度を含む過渡応答の温度特性および超伝導飽和に起因する励起強度依存性変化から、Bi2212試料では、主に偏光変調を反映した信号が支配的に得られることが明らかとなった。2)に関しては、電子相関の異なる4種類の試料を対象に、偏光応答を利用した対称性破れを各試料に対して検出し、主に温度特性を中心に解析・考察を実施した。重要な結果として臨界点から大きく離れた試料で著しい差異が温度依存性に確認され、電子相関との関連から考察を行った。銅酸化物試料とは異なり、電子相関が本質的な役割を果たす有機試料において、得られた結果は光誘起相分離が量子揺らぎの影響を反映することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、軌道角運動ダイナミクス励起・検出を目的としたポンププローブ分光測定系を典型的な高温超伝導試料であるBi2212に対して構築した。軌道角運動量にもとづくキャリアのダイナミクス変化は得られていないが、一般的なポンププローブ分光における過渡反射率応答とは明確に異なる応答信号が得られ、超伝導ギャップおよび擬ギャップ形成温度を含む温度特性から、対称性変化にもとづく偏光変調を反映した過渡応答と考えている。この結果を踏まえ、系統的探索を引き続き実施することにより、高温超伝導物性の主要課題である秩序形成機構および自発的対称性破れの起源と発現機構解明への展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
キャリアの軌道角運動ダイナミクス観測をポンププローブ分光に対して実現するため、初年度は光渦を用いた軌道角運動ダイナミクス励起・検出測定系をBi2212試料に対して構築し、基礎的な測定結果を得た。超伝導ギャップおよび擬ギャップ形成温度を含むキャリアダイナミクスの温度特性から、主に偏光変調を反映した過渡応答が得られることが明らかとなり、本年度は引き続き1)偏光変調測定を系統的試料に対して実施するとともに、高温超伝導の秩序形成機構および自発的対称性破れとの関連性を明らかにする。他方、キャリアの軌道角運動が本質的となるキャリアダイナミクスは確認できていないため、2)新たに偏光変調応答をキャンセルする機構(偏光変調を二重に行う機構)を導入し、軌道角運動量成分のみを高感度に選択検出する分光光学系を構築する。さらに、偏光変調にもとづく特徴的な過渡応答信号に着目し、3)関連物質を含む系統的、普遍的な高温超伝導物性探索を進める。
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