本研究では、バルクSiウエハをプラットフォームとするSiフォトニクスの実現を最終目標とする。Siフォトニクスは大容量・低電力な光集積回路を実現するSi技術である。SOI(Si-on-insulator)ウエハが作製に用いられているが、エレクトロニクス用SOIと仕様が異なり(特に埋め込みSiO2層が数ミクロンと厚い)、ウエハが特殊かつ高価格という問題がある。本研究では、一般的なバルクSiウエハを利用したSiフォトニクスの実現を目的とする。実現の鍵は相反する2つの特性、(1)表面の光導波路からSiウエハへの光放射の防止、(2)表面の光導波路からSiウエハ直上のGe受光器への効率的な光結合、を両立する点にある。薄いSiO2下部クラッド層でバルクSiウエハへの放射損失を抑制することが重要になる。 平成30年度は、薄いSiO2を下部クラッド層とするSiNx光導波路構造の試作を進めた。1ミクロン程度の薄いSiO2下部クラッド層でも波長1.3ミクロン帯で放射損失を1 dB/cm以下に抑制できることを計算機シミュレーションにより明らかにしており、この結果に基づいてデザインの最適化およびデバイスの試作を行った。スパッタ法を用いてSiNx/SiO2/Siウエハ多層構造の作製を行うとともに、電子ビーム露光とドライエッチングによりSiNx光導波路・合分波素子への加工を行った。SiNx光導波路は、主に波長1.3ミクロンでシングルモードとなる幅900nm、高さ600nmのチャネル構造とし、単位長さあたりの放射損失を決定するために導波路長を変化させた。また、多モード干渉を用いた分波素子やリング光共振器(合分波機能を有する)も作製した。実験による有効性の実証に向け、光透過測定を進めている。
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