研究実績の概要 |
微量不純物の検出において不純物分子を直接検出するのではなく、不純物分子が母結晶に与える影響として間接的に検出することで高感度化が実現することを利用し、テラヘルツ吸収スペクトルの周波数シフトを精密に計測することで、その周波数シフトから不純物量を定量評価することに成功した。これは医薬品の不純物検査で一般的に用いられている液体クロマトグラフィ(LC)が苦手とする主薬成分分子に近い分子種、分子量の不純物分子を測定対象にできるので、LCを補完する技術・装置となると期待される。この手法を実際に適用するのにふさわしい対象物質は、高い結晶性を持って鋭い吸収線を示すと共に、吸収線が他の吸収線に近接せずに存在することであり、このような吸収線を多数観測できれば不純物の種類まで定性評価できる可能性が高まる。そのような測定対象の探索を進めたところ、分子量400~4,000程度となる中分子医薬品分子は低温で鋭い吸収線を多数示すことを見出した。例えば、アモキシシリン三水和物やプロブコールはいずれも室温では明瞭なピークを示さないものの、10 Kの低温では最小の半値幅が約5 GHzと非常にシャープになり、多数の吸収線が現れることを見出した。分子量(≒分子中の原子数)が大きくなると振動モードの自由度が増えるためにシャープなスペクトルは観測されないという従来の定説を覆す発見となり、今後ペプチドやタンパク質などのより大きい分子へのテラヘルツ分光スペクトル測定に繋がる結果である。本年度はこれらの結果を査読付英文雑誌にて発表すると共に、派生的ではあるが探索時に測定した医薬品についてテラヘルツスペクトルとXRDスペクトルを対応させた「医薬品テラヘルツスペクトルデータベース」を構築してWEB公開した。
|