マイクロスリットに閉じ込められた2次元結晶配列コロイド粒子系に対し、強磁性・反強磁性相互作用と等価な物理機構と、最安定な結晶構造を得るためのアニーリングプロセスを実装し、スピングラスの最適解探索機能の実証を試みた。 2枚のガラス板で形成した2次元スリット内にポリスチレンビーズ(直径1um、以下単に粒子)を分散させた純水を充填し、これを実験用試料とした。一方のガラス板にはカルコゲナイド相変化材料(GeSbTe; GST)を成膜した。広域にレーザパルス光(波長532nm)を照射し、加熱にともなって発生する対流によって横方向から粒子を加圧し、2次元三角格子を形成させることに成功した。さらに、スリット幅が粒子径の約1.5倍となる領域において、Buckling構造が形成されること、このBuckled相が反強磁性相互作用する三角格子スピン系と等価であることを実証した。 レーザ強度によって横方向圧力を調節し、粒子間のBuckling相互作用の強さを制御できることを確認した。レーザ強度が比較的弱い領域では、粒子は容易に上下動し、最適な粒子配置を広く探索するようすを可視化した。レーザ強度を増すにしたがい、粒子間相互作用、すなわち粒子配置間のエネルギー障壁が徐々に大きくなり、最終的には、自由エネルギー最小、あるいはエントロピー最大の配置に至る過程を観察した。これはすなわち、アニーリング過程の実空間・実時間での可視化に相当する。 粒子間に強磁性・反強磁性相互作用に相当する関係性を持たせ、スピングラス系を実現するために、ポリスチレンビーズと常磁性ビーズを混合することを考案した。常磁性ビーズ同士は磁場印加下で強磁性相当の相互作用を示し、ポリスチレンビーズ間の反強磁性相当の相互作用と合わせてスピングラス系が構成され、さらにその最適解探索が可能であることを実証した。
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