研究課題/領域番号 |
16H03890
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
江馬 一弘 上智大学, 理工学部, 教授 (40194021)
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研究分担者 |
江良 正直 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30191927)
高田 徳幸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (70357359)
森 竜雄 愛知工業大学, 工学部, 教授 (40230073)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ハイブリッド材料 / ポラリトン / マイクロキャビティ / 励起子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,無機と有機が複合したペロブスカイト材料の2次元構造を利用して,ハイブリッド特有の光学応答を顕著に出現させ,デバイス応用への基礎を築くことである.具体的には,申請者らが長年研究してきたこの材料系に関する光物性の蓄積を生かし,室温での発光効率の増大,マイクロキャビティによるポラリトンレーザー,ハイブリッド励起子による非線形効果の増大,などを目指す.これらはすべて,「材料組み合わせの豊富さ」や「無機と有機の結合」などのハイブリッドの特徴を出すことで達成させる. 具体的なデバイスの完成まで実施するのではなく,ハイブリッドの特徴が強く現れた光学応答を実現させ,この材料系が本来持つ能力を十分に引き出すことを目的とする.これにより,注目されている太陽電池応用だけでなく,発光デバイス・非線形デバイスなどへの応用の道を切り開く. 2017年度は,2次元ペロブスカイト材料を含むマイクロキャビティの作製に成功し,キャビティ中の光とペロブスカイト中の励起子との強結合を確認した.結合の大きさを表す真空ラビ分裂エネルギーは160 meVと見積もられ,通常の無機半導体のマイクロキャビティに比べて,1桁大きいものが得られた.さらに,励起密度を上げることで,キャビティポラリトンの基底状態からの発光が強くなることも確認できた.まだ,ポラリトンレーザーの実現には至っていないが,それに向けての大きな進歩があった. さらに,励起密度を上げることで,ポラリトン同士の相互作用も確認された.通常のポラリトン相互作用と異なり,密度の上昇とともにレッドシフトが観測された.この点は非常に興味深いところであり,2018年度はこのメカニズムの解明も進めて行く.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者の高田によるマイクロキャビティ構造作製が成功し,2017年度までに,室温において,真空ラビ分裂の大きさが約160 meV という無機半導体では得られない巨大な値が得られてる.新たに整備した蒸着装置が順調に稼働し,安定性に優れたマイクロキャビティが実現されている.さらに,励起密度の上昇とともに,ポラリトンが最低エネルギー状態に凝縮していく傾向もみられた. 非線形光学現象についてのテーマには着手できていないが,本研究のメーンテーマであるマイクロキャビティについては,上記のように,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に得られた成果を発展させて,室温で動作するポラリトンレーザーに向けた研究を進めて行く.2017年度はポラリトンのボース凝縮にまでは至らなかったが,今後はキャビティ構造を改良させ,より閉じ込めの強いキャビティ光子との相互作用を実現させることで,ボース凝縮を目指す. また,この素子では,ポラリトン形成とエネルギー供給機能が分離されており,レキシブルな素子デザインが可能であることを示唆している.このように,ハイブリッドの特徴を生かして様々な有機材料を組み合わせながら,マイクロキャビティとポラリトンの強結合の実現を目指す. さらに,多重量子井戸ポラリトンとキャビティポラリトンの関係についての研究も進めて行く.エネルギー位置が正確に揃った多重量子井戸ポラリトンは,本研究対象の2次元ペロブスカイト材料でのみ実現可能であるため,研究の特徴が発揮できる点と考えている.また,この材料系における非線形光学に関する研究も可能な範囲で進めて行く予定である.
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