研究課題/領域番号 |
16H03891
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野竹 孝志 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 研究員 (70413995)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体高分子 |
研究実績の概要 |
生物の体内においてタンパク質等の生体高分子は固有の特異な機能を発現し、生命維持活動の為に極めて重要な役割を担っている。個々のタンパク質が発現する固有の生体機能は、タンパク質の種類である1次構造(ペプチド結合)ではなく、その3次元立体構造(コンフォメーション)に強く依存する。このコンフォメーションの形成や変化には、巨視的な協同的運動である低周波振動モードが関与していると考えられており、その振動周波数はTHz(テラヘルツ、1012 Hz)領域に存在していると考えられる。本研究の目的は、近年、我々のグループが開発した超高強度かつ周波数可変なコヒーレントテラヘルツ光源を用いて、タンパク質分子の低周波協同振動モードを共鳴的に強励振し、熱揺らぎを超えてコンフォメーション遷移を誘起し、更にはその制御に挑戦する事である。 昨年度までに光注入型テラヘルツパラメトリック光源の高出力化や安定化、周波数可変範囲の拡大などの最適化に取り組んだきた。昨年度後半からは、実際にテラヘルツ光照射時のタンパク質からの蛍光強度変化をリアルタイム計測するために、光電子増倍管を用いた高感度検出システムの最適化に取り組んでいる。タンパク質試料としては現在主にアルブミンペレットを使用しているが、より分子量の小さいユビキチンなどの方が本研究には適している可能性もあり、様々なタンパク質に対してテラヘルツ光照射を行い、引き続き、蛍光変化の検出を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
テラヘルツ光照射によりタンパク質のコンフォメーションに影響を与えるためには、ピークエネルギーの高いテラヘルツ光を発生することが重要である。また、周波数をある程度スキャンする必要もあり、ノンコリニア位相整合条件下では、周波数スキャンするとテラヘルツ光の発生角が変化し、それに追随して蛍光励起光の制御や検出蛍光光の制御を最適化する必要が生じた。このような光軸系の調整が難しく、若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、テラヘルツ照射時のタンパク質蛍光変化の観測を目指して実験を進めているが、有意な蛍光強度の変化は観測できていない。実際、テラヘルツ光照射によりコンフォメーションが変化するかは不明であるが、今後はよりテラヘルツ光強度を増大するために光源を最適化し、また、対象とするタンパク質もアルブミン以外に、より分子量の小さいタンパク質などを用いることで、より低周波数側に協同振動モードが存在する可能性が高くなり、コンフォメーション変化の誘起も期待できると考えている。また、現在は水によるテラヘルツ光の吸収を避けるために脱水したタンパク質粉末をペレットとして実験に用いているが、脱水によりタンパク質の構造揺らぎが抑制され、コンフォメーション変化を起こしにくい状況となっている可能性もある。従って、水溶液状態のタンパク質試料にもTHz光を照射し、実験を行う予定である。
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