今年度は、前年度までに最適化した光注入型パラメトリックテラヘルツ光源を用いて、実際にタンパク質試料への高強度テラヘルツ光照射実験を行った。 タンパク質や核酸等の生体高分子は全てその分子中に不斉炭素を持っているので、紫外領域において光学活性を示す。こうした不斉炭素による光学活性のみでなく、その立体構造(コンフォメーション)の不斉性による光学活性も存在するために、そのコンフォメーション変化を、まずは円二色性計測により検出することを試みた。 最初に凍結乾燥されたウシ由来アルブミン試料を用いて実験を行った。精密秤を使用して、2mgのアルブミン粉末を薬包紙上に合計12サンプル用意し、6サンプルに対してテラヘルツ光を総エネルギー1J照射した。その後アルブミン試料をスクリュー管へ封入し、マイクロピペット(誤差±60μl)を用いてアルブミン水溶液(3μM)を作製し、CD計測及び蛍光計測を行い、テラヘルツ光照射の有無(それぞれ6サンプルの平均)によるスペクトル形状を比較した。その結果、円二色性計測及び蛍光スペクトルともに強度の差異を観測した。しかしピーク位置の明確なシフトなどは観測できなかった。これらの結果から、テラヘルツ光によりアルファヘリックス構造が減少あるいは崩壊していたり、トリプトファン芳香環周辺のコンフォメーションが変化している可能性等が考えられるが、特にスペクトルに関しては今後の再現実験や、更にテラヘルツ光照射時のリアルタイムでの蛍光計測実験を行う必要がある。
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