研究実績の概要 |
研究三年計画の初年度にあたる今年度は, 本研究課題の最終目的である単一原子レベルの構造制御“アトミックエンジニアリング”実現に向けて, ナノカーボン材料の原子構造が決定される要因, つまり合成機構解明に関して重点的に取り組み以下の成果を得た. まず第一に, ニッケルナノバーを用いたグラフェンナノリボン合成に関して, ニッケルナノバーが一時的に液体状態をとること, 及びその液体状態ニッケルの基板上安定性によりグラフェンナノリボンの合成可否が決定されていることを明らかとした. プラズマからの急劇な高濃度炭化水素供給がこのニッケルナノバー液体の安定性向上に大きな影響を与えていることを見出した. さらに, 冷却過程においてニッケルナノバー中の炭素原子が過飽和析出しグラフェンナノリボンが合成され, その後グラフェンナノリボン下部のニッケル液体が構造不安定化することで, 最終的にグラフェンナノリボン下部からニッケルがディウェッティングにより拡散・消失することが判明した. これらの知見は, 次年度以降のグラフェンナノリボンのエッジ構造制御に向けて非常に重要な知見である. また, グラフェンナノリボンのエッジ構造制御に向け, 幅広い温度範囲(5~300 K)下で光電気伝導特性が測定可能な装置の立上げを行った. 次年度以降本格的に稼働し, グラフェンナノリボンのエッジ構造制御を目指す. 第二に, カーボンナノチューブのカイラリティ選択性と触媒構造の相関に関する機構を解明した. 触媒金属を前処理することで, 触媒金属の酸化度が変化し, それにより最終的に合成されるカーボンナノチューブのカイラリティが大きく変化することを見出した. この情報はカーボンナノチューブの原子構造制御につながる大きな成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度はグラフェンナノリボンとカーボンナノチューブに関して, 最終目標である原子構造制御に向けた第一ステップとして, 各ナノ材料の原子構造が決定されている要因を解明する点に焦点を当てて研究を行った. その結果, 理論家との共同研究を通じ我々のニッケルナノバーを用いたグラフェンナノリボンの合成機構に関する統一モデルを提唱することに成功した. ニッケルナノバーが液体状態を取る点, その液体状態ニッケルの構造安定性が炭素濃度に依存している点, 更には古典的流体不安定性であるプラトー-レイリー不安定性が液体状態ナノバーの構造安定性に密接に関与している点等多くの発見が得られた. さらに, 明らかにした合成機構を基に合成条件を最適化することで100万本以上のグラフェンナノリボンを90%以上の高効率で大規模集積化合成することにも世界で初めて成功した. また, カーボンナノチューブに関しても, 触媒表面状態とナノチューブのカイラリティ選択性に関する非常に重要な情報を明らかにした. 当初の計画とは一部異なる点もあるが, 本年度得られた成果は次年度以降のナノカーボン材料の原子構造制御実現に向けて極めて有用であると判断し ,当初の計画以上に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に明らかにした各ナノカーボン材料の合成機構に基づき, グラフェンナノリボンのエッジ構造制御とカーボンナノチューブのカイラリティ制御を目指す. グラフェンナノリボンに関しては初年度に立ち上げた新装置を用いて, ジグザグ型とアームチェア型のエッジ構造の作り分けを目指す.一方カーボンナノチューブに関しては, 触媒構造, 及び合成条件の最適化により, 特定のカイラリティ種を90%以上の高純度で含む超高純度単一カイラリティナノチューブの合成を目指す.
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