研究課題/領域番号 |
16H03902
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
江島 丈雄 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80261478)
|
研究分担者 |
加道 雅孝 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子ビーム科学研究部門, 室長代理(定常) (30360431)
刀袮 重信 東京電機大学, 理工学研究科, 特別専任教授 (70211399)
東口 武史 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80336289)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 軟X線顕微鏡 / 水の窓 / レーザー励起プラズマ光源 / 反射多層膜 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
研究目的に基づき、平成29年度は下記の実績を達成した。 ①研究計画に沿ってLPP光源の高輝度化は、ターゲットにBiを用いることで、UTA放射の利用とUTA放射を実現するための電子温度Teの高温化が達成できた。また励起レーザーにフェムト秒レーザーを用いることで、プラズマによる発生軟X線の再吸収を妨ぐためのプラズマ臨界密度ncの低密度化を行うことができ、水の窓波長域の発光強度を従来から大幅に改善することに成功した。 ② 29年度には新たに開発した平均で0.3程度の反射率を示すCr/Sc/Mo多層膜を蒸着したトロイダルミラーを、①で完成した光源からの光を集光するための照明光学系として①の軟X線光源と共に軟X線顕微鏡に組み込みテストを行った。テストはポリスチレン球、風乾したHeLa細胞、溶液中のHeLa細胞等を薄片化したシンチレーター上に載せて密着法により撮像を行った結果、これまで難しかった溶液中の細胞が撮像できることが確認できた。 ③ アポトーシス過程の軟Ⅹ線撮像を行うために、アポトーシス過程で変化するDNA中のリン酸基の化学結合状態に注目し、その化学結合状態変化がP-L2,3吸収端で観測できるかどうかの確認を分子科学研究所UVSOR BL4U STXMビームラインを用いて行った。まずリン酸基として化学結合状態のことなるAAとAAA、AMPとcAMP、プラスミドのリン酸基の切断の有無の3組の試料を用意し、リン酸基の変化による化学結合状態の変化がP-L2,3吸収端で観測可能かどうかの検証を行った。その結果、いずれもリン酸基の変化を示すと考えられるスペクトル形状の変化が見られた。特にアポトーシス過程を示した細胞核の状態に近いプラスミドにおいてもリン酸基の化学変化が観測できた事は特筆に値する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題内の各テーマごとに進捗状況に多少違いはあるものの、全体としては概ね順調に推移していると考えている。
これまで研究計画に沿ってLPP光源の高輝度化を行ってきたが、前年度に新たに見出した窒素雰囲気下でのLPP光源の使用により水の窓波長域の軟Ⅹ線強度が増大する現象に関しては、現象の確認と定性的な理解が得られたものの現象を理解するまでには至らなかった。本研究においてこの現象の解明を行うのは研究計画から大幅に逸脱するため、今後この現象の解明には新たな枠組みで継続的な基礎実験を行う必要があることを認識しつつ、本課題ではこの現象についての取り組みを中断することにした。一方で、研究目的のLPP光源の高輝度化は、前年度の研究成果を踏まえ、フェムト秒幅の赤外レーザーによりBi金属を励起してプラズマを生成することにより、従来より大幅に水の窓波長領域の発光強度を増大することに成功した。 この励起光源の発光波長に合わせたCr/Sc/Mo反射多層膜を蒸着したトロイダルミラー2台を新たに作製し、軟X線顕微鏡の照明光学系としてインストールし、光軸調整を行い、撮像実験を行った。現状ではまだ最適な撮像条件を探し出すことに成功していないものの、実用的な時間内で溶液中のHeLa細胞を撮像することに成功した。 アポトーシス過程の解明のためには、これまで注目していなかったリン酸基の化学状態変化に着目し、各種リン酸基を持つ有機化合物と大腸菌由来のDNA構造であるプラスミドのリン酸基の結合状態変化を、P-L2,3吸収端を用いて観測できるかどうかを試みたところ、P-Oのπ結合とσ結合由来のピーク構造の中間部分においてピーク強度の変化が現れることを見出した。以上から、Pの吸収端構造を利用することにより、アポトーシス過程の変化を調べることが可能になった、と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度の研究結果に基づき、軟X線顕微鏡は引き続き撮像条件の最適化を行う。当面はレーザー光学系の口径を拡げ集光光学系の開口数を大きくすることでプラズマ温度の高温度化を図るとともに、照明光学系の最適化を行う。また撮像する試料の状態によっても画像の質が異なることが明らかとなったので、より鮮明な画像を得るために試料側の条件を変化させることも検討している。 またアポトーシス過程の可視化については、リン酸基の化学結合状態変化を検出できることが明らかとなったことから、細胞核においてアポトーシスの進行度合いの異なる試料を作製し、化学結合状態の違いの可視化を試みる。
|