研究課題/領域番号 |
16H03904
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
長谷川 純 東京工業大学, 工学院, 准教授 (90302984)
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研究分担者 |
堀岡 一彦 東京工業大学, 工学院, 教授 (10126328)
岩田 康嗣 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (80356534)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クラスター / レーザーアブレーション / 衝撃波 / 飛行時間分析 / 分光計測 |
研究実績の概要 |
平成28年度は当初の計画通り,レーザーアブレーションプルームの挙動解析のための高速イメージング実験と飛行時間質量分析(TOF-MS)装置の開発及び動作試験を中心に行った。高速イメージング実験においては,背景ヘリウムガス中を進展するシリコンまたはアルミニウム蒸気プルームの様子を詳細に観測し,背景ガス圧およびキャビティー形状に対するプルームの挙動変化を調べた。背景ガス圧を上げるとプルームの進展距離が抑制され,それに伴いプルーム前方に明るく発光する圧縮領域が現れることが分かった。また,プルーム周囲に楕円体形状の壁面を配置することによりプルームの挙動が変化し,壁面付近で圧縮された背景ガスによりプルームが押し戻されることを明らかにした。プルーム内部の熱力学的な状態遷移はクラスター生成過程に大きく影響することから,背景ガス圧および壁面形状の最適化が重要な課題であることを確認した。 一方,TOF-MS装置については,加速電極,収束レンズ,クラスター検出器の設計・製作を行った。動作試験を行う過程において,炭化水素化物に由来すると思われる不純物の信号がバックグラウンドノイズとして発生することが判明した。そこで,オイルフリーポンプの導入やベイキングの実施,真空内構造物の材質の見直し等を行い,真空品質の大幅な改善を行った。その結果,10の-7乗Pa以下の真空度を達成し,バックグラウンドノイズの除去に成功した。また,クラスター生成部とTOF-MS装置の間に2段の作動排気系を導入することにより,クラスター生成キャビティー内のガス圧を1000 Pa程度まで上げることを可能にした。より高圧の背景ガスによりプルームの膨張を抑制しつつ冷却し,さらに検出器系への輸送効率を改善することにより,現在までにSi-11までのクラスターの検出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリコン蒸気プルームの挙動解析とクラスター分析装置の構築および動作試験は予定通り順調に進んでいる。一方,申請時に予定していた産総研のクラスター装置を用いた実験については,研究協力者として当実験を担当する予定であった学生の研究テーマの変更等があり実施できなかった。一方,平成29年度からの実施を予定していた時間分解分光計測については,既存のモノクロメータを用いて今年度に前倒しで行った。原子やイオンのスペクトル線の時間変化については追跡できたが,プルームからの発光量が少ないためクラスター生成と関連のある分子のスペクトル線を観測するには至っていない。プルーム内のクラスター分布の興味深い観測対象であり,レーザー誘起蛍光法や紫外レイリー散乱法等による観測についても引き続き検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は,製作したクラスター生成装置とTOF-MS装置を用いて,シリコンクラスターの生成過程についての解析と質量の揃ったクラスターを生成するための動作条件について,引き続き詳細に検討する予定である。クラスター分子を十分に成長させるには,シリコン蒸気プルームを高密度で閉じ込めて冷却することが必要なため,より高圧(>1000 Pa)の背景ガス下でのクラスター生成を試みる。背景ガスを高圧でパルス供給するためのガスパフ装置を準備中であり,完成次第,実験装置に組み込む予定である。プルームの解析手法としては,前年度に引き続き,高速可視イメージング,高時間分解分光計測を行う。分光計測の感度および測定効率の向上のため,ポリクロメータの新規導入を検討する。 TOF-MS測定については,比較的大きな質量をもつクラスターの検出に未だ至っていない。クラスター検出系の感度向上のための改造や,クラスター加速方向の変更などを行うことにより,重いクラスターの検出を試みることを計画している。
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