研究課題
原子核の基底状態と大きく違う性質を持つアイソマー状態は、原子核物理学として大いに興味深い研究対象であるだけでなく、いくつかの場合は宇宙物理学の 観点からもその重要性が指摘されている。そこで、原子核衝突の確率である反応断面積という物理量を用いてアイソマー状態の核半径を測定する手法を確立するため、新しい粒子検出器をいくつか開発した。その一つとして上げられるのが、重イオン用リング・イメージング・チェレンコフ検出器であり、これにより粒子速度の超高分解能測定を目指した。そのため、位置感応型光電子増倍管6台をチェレンコフ光センサーとして用い、チェレンコフ光リングの半径をこの6台のセンサーにより計測するシステムを開発した。そして、放射線医学総合研究所HIMAC重イオンシンクロトロン施設のビームを利用してテストした結果、132Xe 420A MeV のビームに対して、速度分解能δβ/β = 0.05 % という極めて良い値を達成することに成功した。ただし、全体のシステムに問題を発見し、そのため、センサーとして多重ピクセル光子検出器(MPPC)のアレイを複数台用いる構成で解決を試みた。その結果、システムの問題は解決され、速度分解能もMPPCわずか3台で光電子増倍管6台のシステムに匹敵する性能を達成できた。アイソマーの核半径測定の最初の候補である 16N(0-) 状態についても平行して実験を行った。入射核破砕反応など高エネルギー重イオン反応により生成されるときの、アイソマーと基底状態の割合(アイソマー比)が違う2種類の生成方法(反応の種類)を用いて生成した 16N についてそれぞれ反応断面積を測定し、その結果、アイソマー状態と基底状態の間で核半径が有意に異なるという予備的な結果を得た。
3: やや遅れている
粒子速度の高分解能検出器として開発してきているリング・イメージング・チェレンコフ検出器に関して、光子センサーとして位置感応型光電子増倍管を用いた システムのテストを行った結果、分解能自体は極めて良い値を記録したが、信号処理系・データ収集系に問題があることが発覚した。そのため、その後この検出 器の実用化を検討するに当たり、光子センサーとしては最新の検出素子である MPPC (Multi-Pixel Photon Counter) アレイを用いることにより、その問題を克服できることが判明した。また、この素子を用いることで検出器システム全体の基本性能が向上できる見通しも持てた。そのため、まずは、この MPPC アレイ 3台を用いたシステムを製作し、放射線医学総合研究所HIMACにてテスト実験を行った。その結果は良好で、MPPC アレイ3台で既に光電子増倍管6台に匹敵する速度分解能 δβ/β = 0.05 % for 420A MeV 132Xe の達成に成功した。そして、MPPCアレイ6台のシステムを整備して、粒子速度検出器系の完成を見ることができた。以上のような経緯で、光子センサーとして光電子増倍管の代わりに、MPPC アレイを利用することになり、そのシステム入れ替えのために研究計画に遅れが出た。
完成したシステムを用いて、放射線医学総合研究所などの加速器施設において順次質量数の大きなアイソマーの核半径測定を進めていく。それと同時に、既に測定を行った 16N(0-)アイソマー状態についてのデータ解析を進め、最終的な結果を得る。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件)
学位論文(修士)、埼玉大学理工学研究科物理機能系専攻
巻: 1 ページ: 1-82
新潟大学理学部物理学科卒業論文(学士)
巻: 1 ページ: 1-52
巻: 1 ページ: 1-60
巻: 1 ページ: 1-45
2017 Annual Report of the Research Project with Heavy Ions at NIRS-HIMAC
巻: QST-R-8 ページ: 131-132