研究課題/領域番号 |
16H03918
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山本 誠 東京理科大学, 工学部機械工学科, 教授 (20230584)
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研究分担者 |
守 裕也 東京理科大学, 工学部機械工学科, 助教 (80706383)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 計算力学 / マルチフィジックス / 着氷シミュレーション / ハイブリッド法 / ジェットエンジン |
研究実績の概要 |
着氷は,空気中に含まれる過冷却水滴が壁面に衝突して過冷却状態が解除され,壁面に氷層を形成する現象であり,航空機・ジェットエンジン・風力タービン等において,空力性能の大幅な低下や剥離した氷片による機械の物理的損傷など,致命的な影響を及ぼすことが知られている.着氷に関する数値シミュレーション手法の研究は1990年代前半から行われてきたが,既存の着氷モデルは普遍性が乏しく,粗大液滴の場合や氷粒子を含む場合などあらゆる気象条件に対応できる着氷モデルおよび数値シミュレーション手法の構築が強く求められている.本研究では,粒子法を用いた普遍的着氷モデルを新たに開発し,これを申請者が開発してきたジェットエンジンに対するマルチフィジックス着氷予測格子法コードへ実装することにより,あらゆる気象条件に適用可能な粒子・格子ハイブリッド着氷予測手法を新たに構築・検証することを研究の主目的とする. 平成28年度は,申請者がこれまでに開発してきた粒子法による霧氷着氷モデルを拡張し,雨氷着氷モデルおよびスプラッシュ着氷モデルの構築・検証を目標として研究を進めた.まず最初に,過冷却水滴が壁面上に形成する水膜およびその凍結挙動を妥当に再現できる雨氷着氷モデルの構築を実施した.MPS法に基づいて過冷却水滴の凍結挙動を再現するため,水滴内および水滴と壁面との間の熱伝導現象を再現できるようにコードを改造した.次いで,平板および2次元NACA翼を対象として,凍結およびスプラッシュ挙動の再現性について検証計算を実施した.水滴の衝突角度を変化させて各条件における凍結挙動を実験データと比較した結果,本研究で開発したコードにより,過冷却水滴の凍結挙動およびスプラッシュ量が妥当に再現できることが確認された.一方,液膜の形成は再現されず,液膜形成には周囲の空気流の影響が顕著であり,これを考慮すべきであることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究により,雨氷着氷,霧氷着氷,スプラッシュという着氷特有な現象を再現可能な普遍的な着氷モデルがほぼ完成した。平成29年度は,当初の予定通り,現有の格子法による着氷予測コードにこの粒子法による着氷モデルを組み込む作業を実施して粒子・格子ハイブリッド着氷予測コードを構築することにより,平成28年度に再現できなかった壁面上での水膜の形成も予測可能になると期待している.また,平成29年度に予定しているアイスクリスタル着氷への拡張もこのモデルの発展として容易に対応できる見込みがたった.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,まず,粒子・格子ハイブリッド着氷予測コードの完成を急ぐ.並行して,平成28年度に開発した着氷モデルをアイスクリスタル着氷に対応できるように拡張する.また,着氷にともなう壁面温度の低下を再現するため,壁面内部の熱伝導を計算するためのサブルーチンを追加して,高温条件においてアイスクリスタル着氷を再現可能なコードに改造する.アイスクリスタル着氷に関する実験データは文献等に公開されていないため,現象を基本的な素過程に分解し,各素過程に対して検証を実施する.想定している素過程としては,氷の融解を伴わない低温気体中の氷粒子の飛行挙動,融解を伴う高温気体中の氷粒子の飛行挙動,氷粒子の壁面衝突挙動,融解により表面に液膜を有する氷粒子の壁面衝突挙動である.これらの素過程を再現できるようなモデル化を達成することにより,間接的な証明ではあるが,アイスクリスタル現象を物理的に妥当に再現可能な着氷モデルが構築できると考えている.最後に,開発したコードをジェットエンジンの多段圧縮機に適用し,多段圧縮機におけるアイスクリスタル着氷の再現を行う.計算条件としては,もっともアイスクリスタル着氷が発生する確率が高いと思われる大気条件を仮定する.また,圧縮機の運転条件としては,設計点を仮定する.この数値計算結果を詳細に検討することにより,アイスクリスタル着氷が発生している時に圧縮機壁面の温度分布はどうなっているのか,肥大な氷層が翼面や圧縮機流路のどこに形成されるのかといった点を検討し,アイスクリスタル着氷モデルが実機圧縮機内の着氷現象を物理的に妥当に再現できるのかを確認する.なお,着氷モデルの成否が予測コードの全体性能を決めてしまうことに鑑み,もしもアイスクリスタル着氷のモデル化に手間取った場合には,その検証作業に注力し,多段圧縮機の計算を平成30年度に延期する予定である.
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