研究課題/領域番号 |
16H03924
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
阿部 拓郎 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (50435971)
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研究分担者 |
沼田 泰英 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (00455685)
榎本 直也 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (50565710)
吉永 正彦 北海道大学, 理学研究院, 教授 (90467647)
村井 聡 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (90570804)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超平面配置 / Solomon-寺尾代数 / 完全交差環 / 自由配置 / Weyl群とWeyl代数 / 強レフシェッツ性 / ゴレンシュタイン性 / 対数的ベクトル場 |
研究実績の概要 |
本年度の最大の研究成果は、本研究計画の柱の一つであったSolomon-寺尾代数の定義・基本性質を調べ上げ、まとめたものをプレプリントとして完成させたことである。本結果は研究分担者の村井聡氏、沼田泰英氏及び連携研究者の前野俊昭氏との共同研究である。Solomon-寺尾代数は、本研究が目的としているSolomon-寺尾図式のx=1側の特殊化に対応する代数であることが期待され、平成28年度にはその対応がヘッセンベルグ多様体の場合完全に機能することを示した。その際も暗に現れていたSolomon-寺尾代数をすべての超平面配置に対して正確に定義し、完全交差性というアルチン環の重要な性質と、対応する配置の自由性が同値となることを示した。これによりSolomon-寺尾代数が幾何学的に重要な役割を果たす可能性が極めて強くなった。更にゴレンシュタイン性や強レフシェッツ性といったアルチン環の代数・代数幾何的性質も定式化し、多くの例や反例、および部分的結果を盛り込むことができた。本プレプリントはSolomon-寺尾代数という超平面配置の全く新しい代数を導入した記念碑的なものであり、本研究計画のみならず超平面配置研究においても重要な結果であるといえる。 次に中島規博氏との共同研究について述べる。Solomon-寺尾図式を考察する際、基本的な代数はSolomon-寺尾代数であり、そのもととなるのは対数的ベクトル場である。その高階版を高階対数的ベクトル場と呼ぶが、この性質について研究を行った。高階対数的ベクトル場は、ルート系の研究において重要なWeyl代数と関係が深く、Solomon-寺尾図式解明において重要な役割を果たす可能性がある。中島氏との共同研究において、高階対数的ベクトル場の直和・局所化を定式化し、更にHolmが博士論文で提示した未解決問題を否定的に解決することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度にSolomon-寺尾図式の代数・代数幾何・幾何学的理解がヘッセンベルグ多様体の場合に完全にできることを示し、29年度にはその代数パートを担ったSolomon-寺尾代数に関する基本的かつ重要なプレプリントをまとめることができた。本研究のうち、これでSolomon-寺尾代数に関する部分は相当なまでに完成されたといっても過言ではない。もう一つの柱であるSolomon-寺尾図式のワイル配置の場合の幾何学的表現論を用いた理解については、まだ形にはなっていないが研究分担者の吉永正彦氏、榎本直也氏と、当初の想定通り有理Cherednik代数を用いた理解の方向性が相当程度定まってきており、また連携研究者の木村嘉之氏も交えた議論により幾何学的表現論的な理解も進行しており、平成30年度には少なくとも一つは形にできる見通しが立っている。更に連携研究者の鍛冶静雄氏と、ヘッセンベルグ多様体の同変コホモロジー環に関する議論を局所化の観点から開始しており、これをSolomon-寺尾代数的に理解する計画も視野に入っている。また、高階の対数的ベクトル場の表現論的理解についても、その基礎を中島氏と完成させたことにより研究計画のオプションとして加えることができている。 以上の研究進捗状況を鑑みた結果、本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず幾何学的表現論を用いたSolomon-寺尾図式の理解に注力する。これは吉永氏、榎本氏、木村氏と共同で推進する。まず有理Cherednik代数の準不変式環への作用が、奇数定数重複度を載せた対数的ベクトル場の自由性と深く関係している可能性が高いことが判明した。そこで後者の自由性を証明した、連携研究者の寺尾宏明氏の論文を再度精査し、比較することで新しい理解を見出すことを目標とする。更に、近年並河良典氏らによって進められている、不変ポアソン変形とシンプレクティック特異点解消の研究にに自然に現れる、並河ワイル群と対応する超平面配置の研究も推進する。これらの構成には幾何学的表現論が深くかかわっており、Solomon-寺尾図式の解析に役立つ可能性が高い。よって両社の類似性に着目しながら、注意深く研究を進め、本研究計画の幾何学的表現論的パートの解明を推進する。 更に、Solomon-寺尾代数の強レフシェッツ性についての研究を、村井氏、沼田氏、前野氏らとともに進める。強レフシェッツ性は良い多様体のコホモロジー環が持つ性質である。よっていつSolomon-寺尾代数がこれを持つかが決定できれば、Solomon-寺尾代数がいつ多様体のコホモロジー環と関連付けられうるかがはっきりする。Solomon-寺尾代数の幾何学的理解の基礎付けのため、この研究を可換環論的視点から推進する。 更に、ヘッセンベルグ多様体の同変コホモロジー環のSolomon-寺尾代数を用いた理解も引き続き推進する。本年度は、正則冪零の場合に拘らず、正則半単純あるいは単に冪例の場合まで探索範囲を広げたうえで、本分野の専門家である鍛冶氏とともに様々な可能性を模索したい。
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