研究課題/領域番号 |
16H03925
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤野 修 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324711)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 対数的曲面 / クラスシー / 混合ホッジ構造 / 極小モデル理論 / 藤田予想 |
研究実績の概要 |
飯高予想に関する本の原稿を完成させた。これが2019年度の最大の成果である。5月にシュプリンガーから出版されるはずである。この本は2003年プリンストン高等研究所滞在中に書いた個人的なノートが出発点になっている。その後紆余曲折があり、最終的に専門書の形として出版することになった。私は数年前に複素数体上定義されたQ分解的対数的曲面と対数的標準曲面の極小モデル理論をもっとも一般的な形で確立した。高次元代数多様体論の研究のために整備した枠組みを曲面論に適用することにより、想定されていたより遥かに広い範囲に対して曲面の極小モデル理論を確立した。私の結果は当時大学院生だった田中公氏(現在東京大学)によって基礎体の標数が正の場合にまで一般化されていた。私は2019年度には藤木のクラスシーと呼ばれる曲面にまで極小モデル理論を拡張することに成功した。さらに私は、随分昔にAlexeev氏が導入していたMR対数的標準曲面の一般化としてgeneralized MR対数的標準曲面なる概念を導入した。私と田中によって確立された代数的曲面に対する極小モデル理論を駆使し、generalized MR対数的標準曲面に対しても極めて強力な形で極小モデル理論が成立することを示した。これら一連の仕事により、特異点を持った曲面の極小モデル理論の一般論は完全に完成したと言ってよいだろう。2019年度は曲面論の仕事だけで終わったわけではない。中山昇氏(数理解析研究所)によって導入されたオメガ層の理論に触発され、混合オメガ層なる概念を導入した。大雑把に言うと、混合ホッジ構造の理論の一つの応用である。飯高予想関連に役立つと期待しているが、具体的な応用は今後の課題である。将来的には混合オメガ層の理論が様々な問題で役に立つことを期待している。いずれにせよ、2019年度も想定以上の成果が上がったと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄で述べたように、研究は想定以上に進んでいる。ただ、2019年度は新型コロナウイルスの影響で年度末の予定が全てキャンセルになり、準備していた講演が全くできなかった。久しぶりにアメリカのジョンスホプキンス大学に出張予定だったが、新型コロナウイルスの影響で研究集会自体が延期になってしまった。世界の極小モデル理論の専門家が集まる大きなイベントがなくなってしまい、成果発表、情報取集の貴重な機会を失ってしまった。国内の研究集会でも講演予定だったが、残念ながらその研究集会も新型コロナウイルスの影響でキャンセルされてしまった。新型コロナウイルスの影響で年度末の予定が全て吹き飛んだ感じになってしまったので、年度末に使用予定だった分の研究費は未使用になってしまった。数学の研究そのものは新型コロナウイルスの影響を受けなかったが、とにかく落ち着かない年度末であった。最終年度の研究も新型コロナウイルスの影響が避けられそうにない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はすでに始まっているが、新型コロナウイルスの影響で全く予定が立たない状況である。数学の研究の大きな部分を占めるのは国内外への出張である。現在の新型コロナウイルスの状況を考えると、今年度はほとんど出張には行けないのではないかと考えている。世界の数学者は素早く対応し、現在はオンラインでのセミナーが世界中で行われている。積極的にそのようなセミナーに参加するべきかもしれないが、残念ながら極東の日本は時差の関係でセミナー参加へのハードルがかなり高くなっている。新型コロナの影響は長期間続くと思うので、今後の研究スタイルのベストな形を早く見つけなければいけないと思うのだが、先行き不透明で悶々としているのが現状である。数学的には今まで続けていた混合ホッジ構造の理論の高次元代数多様体論への応用を中心に、関連する話題を幅広く扱っていきたい。最近はあまり扱っていなかったが、解析的手法にも強く興味を持っている。時間を見つけて解析的手法の勉強も続けていきたいと思う。
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