2020年度はコロナのみの1年であった。2019年度の終わりにコロナ感染が日本でも広がった。その結果、2020年の2月以降の出張予定は全てキャンセルした。2020年の3月には久しぶりにアメリカ出張の予定であったが、もちろんコロナでキャンセル。2020年度は4月初っ端から緊急事態宣言で、ひきこもり生活に移行した。それからは数学の研究はオンラインセミナー三昧になってしまった。2019年度も科研費未使用金が生じたし、2020年度は約200万円も未使用金が生じた。コロナ以前の数学研究のスタイルが完全に破壊され、研究計画とは全く異なる一年になってしまったと言ってもよいであろう。 コロナの影響で数学者の研究スタイルはかなり激変したが、幸いなことに私の数学研究は順調であった。2020年度に書いた論文4本についてそれぞれ内容を軽く説明したい。中井モイシェゾンの豊富性判定法を実直線束まで一般化した。これは大学院生の宮本さんとの共同研究である。この論文は地味かもしれないが、ごくごく基本的な結果であり、将来的には役立つこともあると信じている。また、短い単著論文で中山の定理の別証明を与えた。中山本人によるこの定理の証明はあまり理解しやすくはなかった。今回は高次元代数多様体論の専門家にはよく知られた標準的な議論だけで証明することに成功した。今年度の一番大きな仕事は、錐定理と森双曲性に関する論文である。この論文では混合ホッジ構造の変動の理論を高次元代数多様体論に応用するための新しい枠組みを整備した。これによって様々な問題が解決できると考えている。現在も応用の研究は進行中である。最後の論文は、東大の特別研究員の橋詰さんとの共同研究である。極小モデル理論を駆使してうまい部分特異点解消を構成するという話である。これも今後の応用が期待できる話だと思う。
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