研究課題/領域番号 |
16H03926
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島田 伊知朗 広島大学, 理学研究科, 教授 (10235616)
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研究分担者 |
石井 亮 広島大学, 理学研究科, 教授 (10252420)
木村 俊一 広島大学, 理学研究科, 教授 (10284150)
高橋 宣能 広島大学, 理学研究科, 准教授 (60301298)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | K3曲面 / エンリケス曲面 |
研究実績の概要 |
エンリケス曲面の自己同型群やモジュライの研究において,エンリケス曲面上に存在する非特異有理曲線を調べることは大変重要である.今年度は複素数体上定義されたエンリケス曲面上に存在しうる非特異有理曲線のADE型のコンフィギュレーションの格子理論的な同値関係による完全な分類を行った.特に,同じADE型のコンフィギュレーションをもつエンリケス曲面のモジュライが格子理論的データによって区別される複数の既約成分を持つ場合をすべて列挙した.これは平面曲線のザリスキ対の2重被覆による研究のエンリケス対合への拡張ともみることができる.平面6次曲線上の可能な単純特異点の格子理論的分類はYang(1996), Shimada(2010)によってなされている.さらにモジュライの既約成分の確定はAkyol-Degtyarev(2015)によってなされている. レベル4の楕円モジュラー曲面は特異K3曲面である.この曲面を標数3において還元するとフェルマー4次曲面と同型になることはShioda(1973)によって古くから知られていた.レベル4の楕円モジュラー曲面の自己同型群はKeum-Kondo(2001)によって計算されている.また標数3におけるフェルマー4次曲面の自己同型群の計算はKondo-Shimada(2014)によりなされている.今年度は,レベル4の楕円モジュラー曲面の自己同型群が標数3における還元のもとでどのように変化するのかを示し,レベル4の楕円モジュラー曲面の離散付値環上のモデルの自己同型群を考察した.このモデルはPetersenグラフを用いて構成される.さらにNilulin-Kondo-Martinの有限自己同型群をもつエンリケス曲面の分類におけるIV型曲面との関係を記述し,このエンリケス曲面の自己同型群とPetersenグラフの自己同型群の関係を見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模な計算により,複素数体上定義されたエンリケス曲面上に存在しうる非特異有理曲線のADE型のコンフィギュレーションの格子理論的な同値類による分類を完成させることができた.このデータはエンリケス曲面の自己同型群がモジュライ空間の上でどのように変化するかを研究するための基礎となるデータである.計算データは研究代表者のweb pageにおいて公開している.この成果に関してはすでにプレプリントを書き上げ,いくつかのセミナーおよび研究集会において発表をおこなった. この計算のために,格子理論的計算を行うアルゴリズムの開発と改良を実行した.2017年9月にカナダにおいて開催された計算機プログラムSageのワークショップに参加し,複数の研究者からなるグループで公開ライブラリを構築していくシステムについて多くの情報を得た.この研究の多くのアルゴリズムは計算機プログラムGAPにより実装されているが,Sageへの変換を検討中である. 2017年12月に開催された研究集会において,標数3におけるフェルマー4次曲面からIV型のエンリケス曲面を構成する方法について講演を行った際,参加者からレベル4の楕円モジュラー曲面との関連を指摘され,これがきっかけとなって,レベル4の楕円モジュラー曲面を具体的な例として離散付値環上のK3曲面のモデルの自己同型群を開始した.K3曲面の自己同型群を計算するための道具であるBorcherdsの方法は,これまで代数閉体上のK3曲面に対してのみ適用されてきたが,離散付値環上においても有効である事を示すことができた.この結果については現在論文を執筆中である.
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今後の研究の推進方策 |
正標数の上定義されたエンリケス曲面上に存在しうる非特異有理曲線のADE型のコンフィギュレーションの分類を試みる.特に超特異K3曲面を普遍被覆としてもつエンリケス曲面をできるだけ多く構成し,それらについて,超特異K3曲面の豊富な幾何的構造をもとに,自己同型群,射影モデル,その上の非特異有理曲線の分布,楕円ファイブレーションの分類などを詳しく研究する.たとえば,非特異有理曲線のコンフィギュレーションから興味深い組合せ論的構造を発見することを期待している. 特殊化/一般化のプロセスによってつながったK3曲面あるいはエンリケス曲面の族に対して,ネロン・セヴェリ格子の変化とcompatibleになる形でBorcherdsの方法を実行することにより,自己同型群の変化を具体的に記述する.特にピカール数が20あるいは22のK3曲面を普遍被覆としてもつエンリケス曲面から出発して,どこまで一般的なエンリケス曲面の自己同型群を計算できるかという課題に取り組む.この方法では,エンリケス曲面の自己同型群の計算は,同時にその普遍被覆であるK3曲面の自己同型群の計算も含んでいることに注意する. グラスマン多様体の多様体,特に射影多様体 X から幾何学的操作により自然に得られる多様体のクラス(たとえばチャウ形式や X 上の部分線形空間をパラメトライズするファノ多様体など)について,正標数の特異点論の観点からの研究を開始する.9月に開催される特異点シンポジウムに参加予定である. 3月に国際研究集会Branched Coverings, Degenerations, and Related Topics 2019を開催する.開催日時,開催場所はまだ未定である.
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