研究課題/領域番号 |
16H03926
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島田 伊知朗 広島大学, 理学研究科, 教授 (10235616)
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研究分担者 |
木村 俊一 広島大学, 理学研究科, 教授 (10284150)
高橋 宣能 広島大学, 理学研究科, 准教授 (60301298)
宮谷 和尭 広島大学, 理学研究科, 助教 (10711145)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エンリケス曲面 / 双曲格子 / K3曲面 |
研究実績の概要 |
Davide Cesare Veniani (Mainz) および Simon Brandhorst (Saarbruecken)との共同研究により.エンリケス曲面の自己同型に関して大きな進展があった. Venianiとの共同研究では,超越格子のディスクリミナントが36以下の特異K3曲面を普遍被覆に持つエンリケス曲面を完全に分類した.さらにこのうちのいくつかのエンリケス曲面に対しては自己同型群とそのネフ錐への作用を決定した.特に,これらのエンリケス曲面の普遍被覆K3曲面のディスクリミナントの可能な最小値は7であるが,このエンリケス曲面は同型を除いて2個あり,さらに自己同型群はNikulin-Kondo による有限自己同型群を持つエンリケス曲面の分類のI型とII型であることがわかった. その他の場合も,1個の例外を除き,ネフ錐への作用への基本領域は多くの場合 Nikulin-Kondo による有限自己同型群のネフ錐と同じ形をしているという観察に基づき,Simon Brandhorst の共同研究では,ユニモジュラーな階数10の双曲的偶格子の交点形式を2倍して得られる格子 S(2) の,ユニモジュラーな階数26の双曲的偶格子 L への原始的埋め込みが全部で17種類あることを見出し,さらにこのうちの16種類に対しては,Lの正錐のコンウェイ領域への分割から得られるS(2)の正錐の分割が単純であることを示した.これは,エンリケス曲面の自己同型群の Borcherds法による計算が多くの場合簡単に遂行できるということを意味している. 以上の結果はプレプリントとしてすでに公開されている.さらに詳細な計算データは研究代表者のウェブページから手に入れることができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エンリケス曲面の自己同型群のネフ錐への作用が基本領域への単純な分割をもち,しかもその基本領域が17種類に分類されるということは,エンリケス曲面の自己同型群の大規模な計算を行うという計画に対し大きな理論的重要性をもつ.K3曲面の場合に単純ではない分割が現れることは,すでに研究代表者と桂・金銅による標数5の超特異K3曲面の研究において観察されており,このような場合には自己同型群の計算に膨大な時間とメモリが必要であることがわかっている.Borcherds法による自己同型群の計算は,むしろエンリケス曲面においては非常に有用であるということを認識することができた. 自己同型群の Borcherds法による計算に必要な部分アルゴリズムの整理と高速化は着実に進んでいる.さらに昨年度は双曲格子の正錐の中にある有限多面体の面のデータが与えられたとき,余次元の高い faces を,有限多面体の自己合同群が大きい場合に高速で列挙するアルゴリズムを書いた.これはあたえられたK3曲面上のエンリケス対合の分類のみならず,K3曲面を特殊化や一般化したときに,自己同型群がどのように変化するのかを追跡する際に非常に有用である.
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今後の研究の推進方策 |
Simon Brandhorst との共同研究で得られた17種類の格子の原始的埋め込みを幾何学に応用する.すなわち,17種類の基本領域のそれぞれについて,エンリケス曲面とその普遍被覆であるK3曲面,さらにそのK3曲面のネロン・セヴェリ格子のユニモジュラーな階数26の双曲的偶格子への原始的埋め込みで,もとのエンリケス曲面のネフ錐に得られる分割があたえられた基本領域と合同になるものを構成し,その幾何学的意味を調べる.すなわち,基本領域の各面に対応するエンリケス曲面の自己同型を幾何学的に実現する.K3曲面を一般化してネロン・セヴェリ格子の階数がどこまで減らせるかどうかを調べ,できるだけ一般的なエンリケス曲面に対してこの作業を行う.出発点となるK3曲面としては,一般的な種数 2 の曲線のヤコビアンから得られるクンマー曲面を考えている.この K3曲面は19世紀より多くの研究がなされてきた由緒正しい曲面である.このK3曲面の自己同型群は金銅(1998)によりすでに計算されており,さらに大橋(2014)によりその上のエンリケス対合も分類されている.これらのエンリケス曲面の自己同型群を決定することから始めて,これらの古典的な結果をどこまで拡張できるか,つまりネロン・セヴェリ格子を階数の小さな部分格子に制限した場合にも成立するか,を調べる. 普遍被覆K3曲面のピカール数が小さなエンリケス曲面の自己同型群は,格子理論的にはよく理解されているが,生成元の幾何学的記述は難しい.この作業により,普遍被覆K3曲面のピカール数が小さなエンリケス曲面の自己同型群についての理解を深める.
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