研究実績の概要 |
本年度の研究の主なものは以下の通りである. 複素多様体間の射影的な射f:X--> Yに対して, ある点0 in YのファイバーX_0の退化の様子を調べる研究を行った. より具体的には, fの双有理モデルの取り換えにより, X_0の特異性が緩やかであるようにできるのはどのような状況かを判定するいわゆる充填問題の研究を行った. 得られた結果は次の通りである. ファイバー空間fは弱半安定であり, 良い極小モデルを持つものとする. 中心ファイバーの既約分解をX_0 = cup_{i in I} F_i, 一般ファイバーをX_yとする. 多重種数の等式sum_{i in I} P_m (F_i) = P_m(X_y) が十分多くのm>0に対して成立するとする. このときfの良い極小モデルf': X' --> Yに対し, 中心ファイバーX'_0は正規であり高々標準特異点しか持たない. 特にP_m(X'_0)=P_m(X_y)がすべてのm>0に対して成立する. 証明には研究代表者の10年前の結果, 連携研究者の藤野の結果, 近年の極小モデル理論の発展, 等を用いている. この結果は底空間が一般次元で成立する点でこれまでの先行研究にないものを含み, 今後の研究, 応用の発展が期待できる. その本年度の応用としては, 底空間の次元が1である場合をまず行った. 中心ファイバーが高々標準特異点しかもたないようなモデルの存在と, 底空間上のある種のWeil-Petersson型擬計量が0の周りで非完備であることとが同値であることを示した. Weil-Petersson型擬計量は相対多重標準形式を通して定義されるファイバー空間fに付随したものである. この応用は2003年に提出されたC.-L. Wang氏の予想の肯定的な解決を与えるものである. 論文としてまとめて国際雑誌に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
f : X --> Yを複素多様体間の全射固有正則写像とする. f の一般ファイバーがカラビ-ヤウ型多様体で、Yは一般次元である場合の研究を行う. 数年前の研究でYが1次元の場合に、次の(1)~(3)が同値であることを示している。(1) 特異ファイバーX_0は高々標準特異点しか持たない。(2)滑らかなファイバーのケーラー・アインシュタイン計量に関する直径は一様有界である。(3)底空間Y -- 0に定まるヴェイユ・ペーターソン計量は原点0のまわりで非完備である。しかしモジュライ空間は一般には1次元ではないため、Yが高次元の場合の研究が不可欠である。これに以下のような連携研究者間の役割分担で取り組む。研究代表者, 大沢は滑らかなファイバーのベルグマン核計量の変分公式を研究する。研究代表者,Tosatti (海外研究協力者), 後藤はより微分幾何的な視点から滑らかなファイバーのケイラー・アインシュタイン計量の退化を研究する。藤野, 尾高らは、極小モデル理論の枠組みを利用した議論から、解析的な評価を導く研究を行う。一方, 7月には多変数複素解析葉山シンポジウムを, 11月には複素幾何学シンポジウム(金沢)を開催し, 国際的な研究交流を行う.
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