研究実績の概要 |
本年度の研究の主なものは以下の通りである. 複素多様体間の射影的な射 f : X --> Yに対して, ある点0 in YのファイバーX_0の退化の様子を調べる研究を行った. より具体的には, fの双有理モデルの取り換えにより, X_0の特異性が緩やかであるようにできるのはどのような状況かを判定する, いわゆる充填問題の研究を前年度に引き続き行った. 本年度は特に一般ファイバーの標準束K_{X_t}が豊富である場合を研究した. 研究においては特に次の二つの性質に注目した. (i) 一般ファイバーにはリッチ曲率が負のケーラー・アインシュタイン計量g_tが一意的に存在する. その計量g_tに関するX_tの直径diam (X_t, g_t)のtに依らない上からの一様な評価の存在. (ii) 原点ファイバーX_0がいわゆる高々対数的端末特異点しか持たない. ただし有限次数の底変換 Y' --> Y と, XのX_0に沿った双有理変換を施すことを許すものとする. 本年度は(i)ならば(ii)が成立することを示した. 一方, 2017年初めにJ. Songが(ii)ならば(i)が成立することを示していた. これらの結果は一般ファイバーがカラビ・ヤウ多様体, リッチ平坦なケーラー・アインシュタイン計量を許容する場合の研究代表者らによる定理の対応する結果であり, 数年前からその証明が期待されていた. ただし, カラビ・ヤウ多様体の退化の場合には同様な直径の一様な評価は, 原点ファイバーが高々標準特異点しか持たないことと同値であった. リッチ曲率が負の場合には標準特異点よりも悪い特異点が実際に現れる例が存在することも示した. これは連携研究者の尾高氏の貢献である. 論文としてまとめ国際的な学術雑誌に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
f:X --> Yを複素多様体間の全射固有正則写像とする. fの一般ファイバーが負曲率ケーラー・アインシュタイン多様体, Yは1次元(単位円板)の場合の研究を行う. これまでの研究により次の2つの条件, 性質が同値であることが分っている. (1) 一般ファイバー(X_t, g_t)の直径が上から一様に有界である. (2) 特異ファイバーX_0は高々対数的端末特異点しか持たない. 今後は上の状況における底空間Y上に定義されるヴェイユ・ペーターソン計量g_WPの0 in Yの周りでの振る舞いを研究する. Tianらによる先駆的な研究により, 適当な意味でどのような状況においてもg_WPは非完備であることは知られている. これをもっと踏み込んで上の状況ではg_WPは高々錐特異性しか持たないことを示す. さらにモジュライ空間の部分的なコンパクト化の問題に議論を深めたい. これに以下のような役割分担で取り組む. 研究代表者, 二木, 後藤は全空間Xに定まる相対ケーラー・アインシュタイン計量のX_0の近くでの挙動を研究する. 研究代表者, Schumacher (海外研究協力者), 宮地はヴェイユ・ピーターソン計量と一般ファイバーのケイラー・アインシュタイン計量の退化の関係を研究する. 藤野, 尾高らは, 極小モデル理論の枠組みを利用した議論から, 解析的な評価を導く研究を行う. 一方, 7月には多変数複素解析葉山シンポジウムを, 11月には複素幾何学シンポジウム(金沢)を開催し, 国際的な研究交流を行う.
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