研究実績の概要 |
複素多様体間の正則平坦射 f : X-->Y に対し, 所謂ファイバー積分により得られるY上の関数, またはそれに類するものは様々な場面において現れ, その研究は応用上不可欠である. 特に深く関係する先行研究としてBarlet氏によるdim Y = 1の場合のものがある(1982年). この研究の高次元化, dim Y > 1, は様々な技術的な困難があり, 長い間為されてこなかった. この高次元化について, 最近の代数多様体のモジュライ理論の発展に動機を得て, ファイバー積分のfの特異点の周りでの漸近展開に関する研究を行った. 2018年度中にはこの方向での最終的な形の研究成果を挙げるまでには至っていないが, 目標まで半分強程度の研究の進展があった. 予想される結果は大別して, (i)ファイバー積分の漸近展開の存在に関する部分と, (ii) 形式的に与えた漸近展開の形が実際のファイバー積分として現れる, という部分の二つに分かれる. (i)の漸近展開の存在については期待した結果が得られた. (ii)の部分については多変数におけ技術的な困難さから幾らか時間がかかっている. これからの課題である. 投稿した論文「A filling-in problem and moderate degenerations of minimal algebraic varieties」は査読付き雑誌Algebraic Geometryに掲載された. 2018年7月には北京の中国科学院で開催された研究集会において招待講演を行った. その際にYau, Guan-Zhouらの研究グループと有意義な交流を行うことができた. 一方, 7月には多変数複素解析葉山シンポジウムを, 11月には複素幾何学シンポジウム(金沢)を開催し, 国際的な研究交流を行った.
|
今後の研究の推進方策 |
f : X --> Y を複素多様体間の全射固有正則写像とする. まずは所謂ファイバー積分に関する写像fの特異点のまわりでの漸近展開についての理論を完成させる. このようなファイバー積分の計算は古くから大変しばしば現れるものであるが, 底空間Yの次元が1より大きい場合には, 技術的な困難からその研究は長い間為されてこなかったと言ってよい. 底空間の次元が1の場合にはBarlet(1982)による研究があり, 理解が進んでいると言える. 底空間Yの次元が高い場合には, 写像fのある種の半安定還元定理を用いることにより, 議論がBarletの研究に部分的に帰着され, 次元についての帰納法が働くものと期待している. 上述の研究と同時並行して一般ファイバーがケーラー・アインシュタイン多様体の場合の退化の研究も行う. これに以下のような役割分担で取り組む. 研究代表者と大沢はファイバー積分の特異点のまわりでの漸近展開の研究を行う. 二木, 後藤は全空間Xに定まる相対ケーラー・アインシュタイン計量のX_0の近くでの挙動を研究する. 研究代表者, Schumacher (海外研究協力者)はヴェイユ・ピーターソン計量と一般ファイバーのケイラー・アインシュタイン計量の退化の関係を研究する. 藤野, 尾高らは, 半安定還元理論や極小モデル理論の枠組みを利用した議論から, 解析的な評価を導く研究を行う. 一方, 7月には多変数複素解析葉山シンポジウムを, 続けて東大数理において複素幾何学ワークショップを, 11月には複素幾何学シンポジウム(金沢)を開催し, 国際的な研究交流を行う. 得られた研究成果は7月末に吉林師範大学(中国, 長春市)で開催される多変数複素解析の研究集会や, 12月にシドニー大学で開催される代数幾何周辺の研究集会で発表する予定である.
|