研究実績の概要 |
複素多様体間の正則平坦射f:X-->Yに対し, 所謂ファイバー積分により得られるY上の関数, またはそれに類するものは様々な場面において現れ, その研究は応用上不可欠である. 特に深く関係する先行研究としてBarlet氏による dim Y = 1 の場合のものがある(1982年). この研究の高次元化, dim Y > 1, は様々な技術的な困難があり, 長い間為されてこなかったが, 射がトーリックである場合に理論を完成させた. 特に, 底空間Y上の連続関数FがX上のある微分形式のファイバー積分として表示されるための必要十分条件を与えた. ファイバー積分として得られる関数全体は所謂Y上の対数微分の作用で閉じていること, ファイバー積分の漸近展開は対数微分作用素に関して項別微分可能であることを示した. 代数幾何学の枠組みでは射はトロイダルな場合に還元できるため, 応用上の不都合はあまりない. 投稿した論文「Moderate degeneration of K\"ahler-Einstein manifolds with negative Ricci curvature」はPubl. RIMSに,「Moderate degenerations of Ricci-flat K\"ahler-Einstein manifolds over higher dimensional bases」はJ. Math. Sci. Univ. Tokyoに掲載された. 2019年12月にはオーストラリアのシドニー大学で開催された研究集会において招待講演を行った. 集会はシドニー大学数学研究所の支援を受けており, 研究所のメンバーらと有意義な交流を行うことができた. 一方, 7月には複素幾何学のワークショップなどを, 11月には複素幾何学シンポジウム(金沢)を開催し, 国際的な研究交流を行った.
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今後の研究の推進方策 |
f:X --> Yを複素多様体間の全射固有正則写像とする. 今後はこれまでのファイバー積分に関する写像fの特異点のまわりでの漸近展開についての理論を拡充する. 例えばfは半安定とする. このときf_*(K_{X/Y}+L)の標準L2計量g_{L2}がMumfordの意味でgoodであることを示す. dim Y > 1のときが応用上不可欠である. 計量を行列表示したときの対角成分以外の部分の評価が問題である. 技術的な面では, 相対極小モデルへの双有理写像 X - - > X_{min}は一般には正則ではなく, 特に標準L2計量g_{L2}の微分係数を求めることに困難がある. 研究代表者、藤野、尾高らは、半安定還元理論や極小モデル理論の枠組みを利用した議論から、L2計量、ファイバー積分等の解析的な対象に移行した際のファイバー積分等の漸近挙動についての解析を行う。研究代表者、大沢らは上述の計量の曲率形式の特異ファイバー近くでの挙動を研究する。多重相対標準束mK_{X/Y}特有の標準計量であるLp計量, p=2/m, を研究する. 一般のmでは0<p<1となり, 関数解析の一般論の適用外であるが, 幾何学的な設定から出発していること, 多重標準束由来であることを利用することで興味深い理論が展開できそうである. 一方,7月下旬には「多変数複素解析葉山シンポジウム」を, 9月上旬には「複素幾何学の諸問題 II」と題した研究集会(プロブレムセッション)を大阪市立大学において開催する. 11月には「複素幾何学シンポジウム」を開催し, 国際的な研究交流を行う. 得られた研究成果は6月上旬に国立シンガポール大学で開催される研究集会「Workshop on complex geometry」、11月の「複素幾何学シンポジウム」などで発表する予定である. いずれもオンラインでの実施が主となる.
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