研究実績の概要 |
複素多様体間の正則平坦射 f : X --> Y に対し, 所謂ファイバー積分により得られる Y 上の関数, またはそれに類するものは様々な場面において現れ, その研究は応用上不可欠である. 前年度までの一般論, f の特異点のまわりでの漸近展開についての理論の基礎部分の完成を受けて, 本年度はその理論の応用に関する研究を行った. f : X --> Y が所謂ログ・カラビ-ヤウファイバー空間とする。このときログ相対標準束の順像層 f_*(K_{X/Y}+D) は適切な条件下で Y 上の Q 因子に対応する。標準束公式および川又正値性定理より、これが M+B として表示でき、M (moduli part)は f のファイバーの複素構造の変動から定まるネフ因子、B (boundary part)は f の特異ファイバーの様子から定まる有効 Q 因子となる。このことはファイバー積分から得られる標準 L^2 計量の観点からも解釈できる。当該年度の研究では特に因子 B に対応する特異性に関し、これまでの研究成果を応用することで、特異性は十分にマイルドであることを示した. 標語的には、ルロン数はゼロ、高々log log 特異性しか持たないなどと言える。計量の非特異性にはすでに反例があることが知られているため, より精緻な解析が必要となった. 投稿中の論文「Asymptotic expansions of fiber integrals over higher-dimensional bases」は J. reine angew. Math.にアクセプトされた。2020年11月には研究集会「第26回複素幾何シンポジウム」をオンライン開催し, コロナ禍下ではあるが研究交流を行なった.
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