研究課題/領域番号 |
16H03930
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
植田 一石 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (60432465)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホモロジー的ミラー対称性 |
研究実績の概要 |
明治大学の野原雄一氏と共同で、Grassmann多様体に対するミラー対称性の研究を行った。我々のこれまでの研究で、多角形の三角形分割を一つ与える毎に、n次元空間内の平面のなすGrassmann多様体Gr(2,n)上に完全可積分系が定まることが示されていたが、本年度の研究において、これらの完全可積分系のトーラスファイバーに対するポテンシャル関数の壁越え公式が、Grassmann多様体のPlucker座標の持つクラスター構造に関するクラスター変換と、適当な同一視のもとで一致することを示した。
また、King's College LondonのYanki Lekili氏と共同で、A-infinity構造のモジュライ空間とそのホモロジー的ミラー対称性への応用の研究を行った。A-infinity代数は、積がup to coherent homotopyで結合的であるような次数付き微分代数の一般化である。与えられた次数付き代数BのHochschildコホモロジーが適当な条件を満たせば、Bに入るA-infinity構造のモジュライ空間がスキームになることがPolishchukによって知られているが、我々は、Bとしてある具体的に表示される有限次元の次数付き代数を取った時、得られるモジュライ空間がArnoldの意味の例外型unimodal特異点の半普遍開析の正部分であり、これを乗法群の自然な作用で割ることによって対応する格子偏極K3曲面のモジュライ空間が得られる事を示した。このBは対応する例外型unimodal特異点に付随する次数付き安定導来圏を記述する代数のCalabi-Yau完備化であり、同じ代数がその特異点とArnoldの奇妙な双対性(strange duality)によって対応する特異点の深谷-Seidel圏の記述も同時に与えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の本年度の研究において与えられた、Grassmann多様体上の完全可積分系のトーラスファイバーに対するポテンシャル関数の壁越え公式と、Grassmann多様体のPlucker座標の持つクラスター構造に関するクラスター変換の同一視は、Lagrange交叉Floer理論とクラスター代数の理論の間の直接的な関係を与える重要な結果である。
また、A-infinity構造のモジュライ空間に関する本年度の我々の結果は、一般の可逆多項式に対するBerglund-Hubsch転置によって得られるCalabi-Yau多様体の組に対してホモロジー的ミラー対称性を証明するための全く新しいアプローチを与え、今後の発展が大いに期待される。
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今後の研究の推進方策 |
我々の本年度の研究において与えられた、Grassmann多様体上の完全可積分系のトーラスファイバーに対するポテンシャル関数の壁越え公式と、Grassmann多様体のPlucker座標の持つクラスター構造に関するクラスター変換の同一視は、我々によって始められ、Oh-Cho-Kimらによって更に発展させられた、一般化された旗多様体上のGelfand-Cetlin系のトーラスではないLagrangeファイバーに関する研究を補完するものであり、Rietschによって発見されたLie理論的なミラーをStrominger-Yau-Zaslow予想的な見方から導出するための重要な一歩となると期待される。この方針を継続して、RietschのミラーをFloer理論的に理解したい。
また、A-infinity構造のモジュライ空間を用いたホモロジー的ミラー対称性の研究も推進する。特に、モジュライ空間の境界上にある巨大体積極限/巨大複素構造極限点におけるホモロジー的ミラー対称性として、Calabi-Yau多様体から豊富な因子を取り除いて得られるLiouville領域が、(1次元では節点、2次元ではカスプ特異点であり、高次元ではそれらの拡張になっているような)ある特異点を持つ有理多様体とミラーであることが予想されるが、この証明に取り組む。また、Abel多様体への拡張も興味深い問題である。
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