研究実績の概要 |
今年度はエンリケス多様体の解析的捩率不変量と3次元カラビ・ヤウ多様体BCOV不変量を中心に研究を行い, 以下の結果を得た. (1) エンリケス多様体の解析的捩率不変量を構成し, 複素ヘッシアンがヴェイユ・ピーターソン計量で与られる事を示した. コンパクト複素空間でパラメーター付けられたエンリエス多様体の族が, 局所自明である事を示した. 偏極エンリケス多様体のモジュライ空間の準アフィン性を示した. (2) 超ケーラー型エンリケス多様体のモジュライ空間のハウスドルフ簡約が直交型モジュラー多様体(のザリスキ開集合)である事が知られている. 超ケーラー型エンリケス多様体の解析的捩率不変量がこのモジュラー多様体上の保型形式で与えられる事を示し, ボルチャーズ Φ-関数を超ケーラー型エンリケス多様体に拡張した. 同時に, 超ケーラー型エンリケス多様体のモジュライ空間のハウスドルフ簡約の準アフィン性を示した. (3) これまでに知られているエンリケス多様体の無限4系列に対して, 解析的捩率不変量をモジュライ空間上の保型形式や代数関数として与えた. (4) ボルチェア・ボアザン型カラビ・ヤウ多様体のBCOV不変量が遷移に関して整合的に振舞う事, 即ち, ボルチェア・ボアザン多様体のBCOV不変量の判別式軌跡における準引き戻しが, 遷移として現れるボルチェア・ボアザン多様体のBCOV不変量になる事を示した. この系として, 偶テータ定数全部の積の準引き戻しが, ボルチャーズ積と種数の小さい偶テータ定数全部の積になる事を示した. 私の知る限り, ジーゲル保型形式からボルチャーズ積が構成される現象は本研究で初めて観察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超ケーラー型エンリケス多様体については, 解析的捩率不変量として得られる保型形式の性質を追求する事により, 超ケーラー型エンリケス多様体のモジュライ空間の次元の一様有界性が従う可能性がある. これが示されれば大きな衝撃であり, 超ケーラー多様体の理論に本質的な進歩がもたらされる. 一方, BCOV不変量については, ボルチェア・ボアザン型の場合に遷移に関する整合性を得たことは進歩である. 当該年度に一般次元カラビ・ヤウ多様体やカラビ・ヤウ対に対してBCOV不変量が定義されるという他の研究者による進展があり, その進展について勉強した. 研究目標の一つであるBCOV不変量の明示公式については, あまり大きな進展はなかった.
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今後の研究の推進方策 |
超ケーラー型エンリケス多様体の解析的捩率不変量として得られる保型形式について, その特異台を調べる. この保型形式が正則で鏡映的であることが示されれば, エンリケス多様体のモジュライ空間の次元が高々26次元であることが従うので, この性質を証明することが当面の大きな課題である. 今年度はこれまでに得られたいくつかの結果をまとめて, 論文として公表することも目標である.
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