研究課題/領域番号 |
16H03938
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
会田 茂樹 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (90222455)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラフパス / パス空間 / 弱ポアンカレ不等式 / リッチ曲率 |
研究実績の概要 |
反射壁確率微分方程式は経路依存方程式と見ることができる。経路依存方程式と見直し、かつGubinelliのcontrolled pathの概念を用いることにより、反射壁ラフ微分方程式の解の存在定理を拡張した。
(非コンパクト)リーマン多様体上のパス空間にはブラウン運動の基礎的確率測度があり、多様体のリッチ曲率の有界性があれば、対数ソボレフ不等式やポアンカレ不等式が成立することが示されている。ポアンカレ不等式の成立とディリクレ形式の既約性を補間する概念として、Feng-Yu Wangにより、弱ポアンカレ不等式の成立という概念が導入された。さらにWangは、リッチ曲率の有界性を大幅に緩めた条件の下、係数に対する評価付きで弱ポアンカレ不等式を証明した。このリッチ曲率の条件下では、ブラウン運動は保存的である。ブラウン運動の保存性の条件のみで同様な結果が成立するかどうか考えるのは自然な問題であるが、彼の論文では、どちらかというと不等式成立には懐疑的であった。
しかしながら、実際は、ブラウン運動が保存的な場合、弱ポアンカレ不等式の成立を示すことは可能である。証明の基本になるのは、ウィーナー空間のブラウン運動のラフパスのボール状領域での弱ポアンカレ不等式とLyonsの連続性定理である。Lyonsの連続性定理は微分方程式の係数について有界性などの性質が必要だが今の場合はそれが成立していないが、カットオフ関数をかける議論で困難は回避できる。しかしながらこの手法では、係数評価を行うことはできない。条件付きブラウン運動を与える方程式も終端時刻において特異性がある方程式であり、上記の問題と類似の点がある。他にもベッセル過程のように特異性を持つ方程式の解も同様な類似性がある。これらの方程式のラフパスの枠組みでの研究についても取り組み始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繰越時に課題としたパス空間上の弱ポアンカレ不等式の係数評価の問題が、まだ未解決であるが、反射壁ラフ微分方程式については存在定理の拡張ができたため。
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今後の研究の推進方策 |
経路依存ラフ微分方程式の一意性の問題をTindelらの手法を参考にして考えたい。
研究実績の概要に書いた条件付きブラウン運動を与える方程式(これは有限次元の方程式)や反射壁確率過程やベッセル過程のように特異性を持つ確率過程の分布を可逆測度とする無限次元空間の確率微分方程式(SPDE)は、特異性のある項を含んだ方程式である。前者のラフパスとしての取り扱い、後者のSPDEの解の弱ポアンカレ不等式などの研究を行い、パス空間上の弱ポアンカレ不等式研究に有用な点が無いか検討したい。
また、回転対称の場合、ブラウン運動の保存性はリーマン計量を規定する関数に対する簡単な条件と同値になる。その場合、リッチ曲率ではなく、その条件に出現する関数を用いて弱ポアンカレ不等式の係数関数が評価されるはずである。この観点にも立ち戻って問題を考えたい。
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