研究課題/領域番号 |
16H03949
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長山 雅晴 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (20314289)
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研究分担者 |
小俣 正朗 金沢大学, 数物科学系, 教授 (20214223)
北畑 裕之 千葉大学, 大学院理学研究科, 准教授 (20378532)
Ginder Elliott 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (30648217)
中村 健一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (40293120)
田中 晋平 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40379897)
中田 聡 広島大学, 理学研究科, 教授 (50217741)
末松 信彦 明治大学, 総合数理学部, 専任講師 (80542274)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 数理モデリング / 数値シミュレーション / パターン形跡 / 集団運動 / 自励往復現象 / 渋滞現象 / 分岐現象 |
研究実績の概要 |
生物系には,多数の独立した個体が集団として協調的に運動し,機能を発現する例が見られる.このような生物の集団運動のメカニズムを解明するために,非生命自己駆動系の集団運動に対する数理モデル化を行い,数理解析と実験解析の相補的研究によって,集団運動の発現機構およびそのパターン形成のメカニズムを明らかにする.そして,個別の現象を含んだより一般的な普遍性を持つ数理モデルの構築を目的として研究を推進している.今年度は,流体効果を取り入れた自己駆動粒子運動の数理モデル化,直線水路内で自励往復運動を起こす液滴の数理モデル化を行った. 流体効果付き自己駆動粒子の数理モデルを構築し,自己駆動粒子運動の水深依存性を調べた.その結果,1次元水路での水深依存性の実験系(円環水路)の実験結果と数理モデルの数値シミュレーションで一部異なることがわかった.しかしながら,2次元水面での水深依存実験系の結果とモデルの結果は定性的に一致することがわかった.この結果から,1次元水路実験系では,流れが側壁の影響を強く受けていることが示唆されたため,対流が原因であると考えられる2次元の水面上での集団運動について,実験と理論の両面から理解するためには,境界から受ける流れの影響を極力排除した系を考なければならないことがわかった. 液滴の自励往復運動では,現象を再現する数理モデルの構築に成功した.また,自励往復運動から並進運動に遷移する過程で不規則な運動が観察されるが,その現象も数理モデルで再現された.数理モデル構築のプロセスから自励振動の起こるメカニズムを示唆することができた. 異方性を持つ自己駆動粒子の集団運動で発見された渋滞現象にみられる渋滞波の前進現象についても前進現象を確認することができた.これらの結果から,集団運動の数理解析を行うための基礎となる数理モデルは完成したと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対流効果を伴う粒子運動の解析については,ナビエス・ストークス方程式と粒子運動モデル,界面活性分子膜拡散モデルを結合した数理モデルを構築することができた.今回我々が構築した数理モデルは,流速の境界からの影響が弱い場合は有効であることが示唆された.この成果は今後論文投稿する予定である.今後もこの数理モデルの有効性を検証してく必要があり,限定された状況ではあるが,対流効果に起因されて起こると予想される集団運動の数理解析を行うための基礎はできたと考えられる.今後は2次元での運動について解析を進める段階まで進捗している. 液滴運動の自励振動現象については,「液滴の変形は運動によってのみ起こる」と仮定して,液滴形状が変化することを仮定しない数理モデルを構築した.その結果,液滴から展開されるサリチル酸ブチルとバルク中のSDSとの会合体を作ることによって自励往復運動をする数理モデルの構築に成功し,実験との整合性も非常に高いことがわかった.この結果は現在論文として投稿中である.液滴の集団運動に対する数理解析に着手する段階まで来ている. 非対称な自己駆動粒子の集団運動の特徴である前進渋滞現象については,これまでに提案した数理モデルを用いて再現できることがわかった.数値計算からこの現象はHopf分岐であることが予想される.数理モデルの計算機援用解析を行う段階まで進んだ. 現時点で普遍的な数理モデルを構築するために必要な自己駆動系に共通するメカニズムを取り出せてはいないが,集団としての特徴的な運動の発生にHopf分岐やPitch-fork分岐等の分岐現象が関わっていることが見えてきたため,引き続き分岐現象の視点から自己駆動系の運動を解析してく.
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今後の研究の推進方策 |
対流効果を伴う粒子の集団運動を扱うために,実験グループと共同して数理モデルの結果と実験検証を通して,今年度構築した数理モデルをより簡略化した数理モデルの構築を行う.そして,2次元領域における粒子の集団運動の再現を目指す.特に,集合と離散を繰り返す運動,粒子密度に依存して自己集合する現象に注目して研究を推進する.現象の再現が困難な場合は,基礎モデルを改良し,理論結果と実験結果の相違を明らかにし,実験グループと綿密な議論をすることで解決を図る.これと同時に数理モデルの数値分岐解析が可能となるソフトウエアの開発を進めていく 多粒子系の集団運動の1つである異方性粒子に現れる渋滞運動の出現は,数値計算から一様解からのHopf分岐であることが示唆されている.数理モデルに対する数値分岐計算法を確立し,計算機援用解析によって前進渋滞の出現メカニズムを明らかにする. 液滴運動については,1次元的運動の再現に成功しているが,今後2次元シャーレ上での運動についてその再現性を確認する.また,現在の数理モデルでは液滴の形状変化を表現することができないことがわかっており,液滴の形状を表現することが可能な数理モデルの構築を進めていく.それと同時に形状変化を伴う液滴運動モデルの高速数値計算法についても共同研究者と共に進めていく.この数理モデルが完成した後は,液滴の集団運動の再現に挑み,一見斥力効果しかないような自己駆動液滴に現れる集合現象の出現メカニズムについて分岐理論を援用することで数理科学的に明らかにする. 上記の具体的な現象の研究結果から粒子運動と液滴運動に共通するメカニズムを取り出し,流体相互作用を伴う自己駆動運動系を記述する普遍的な数理モデルを構築する.具体的には分岐理論に裏付けされた縮約理論を援用する予定である.
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