研究課題
セイファート銀河のX線観測によって見出された時間変動する硬X線・軟X線放射領域の形成と光度上昇に伴う軟X線放射領域の拡大機構を解明することを目的として、硬X線放射が卓越する光学的に薄い高温降着円盤への降着率増大によって形成される低温・高温円盤共存状態の理論・シミュレーション研究及びX線観測との連携研究を実施した。このため、我々が開発してきた高次精度3次元磁気流体コードCANS+に太陽大気の磁気流体計算で使用されている陽的な解法であるSuper Time Stepping法に基づく熱伝導モジュールを実装し、高温領域からの熱伝導による低温領域の加熱、円盤物質の蒸発による高温コロナ形成過程等を扱うことを可能にした。また、イオン温度と電子温度が異なる2温度プラズマを扱うことができるように磁気流体コードを拡張した。シミュレーションによって得られた密度・温度分布をもとにコンプトン散乱を考慮した光子輸送のモンテカルロ計算によって輻射スペクトルを計算するコードへの一般相対論効果の組み込みも進めた。ASTRO-H/ひとみ衛星は運用できなくなったが、初期観測で得られた銀河団および中心の巨大ブラックホールからのX線放射の解析、「すざく」衛星で得られたブラックホール候補天体のデータ解析との連携を進めた。このため、2016年8月と2017年3月に千葉大学で「ブラックホール降着流ミニワークショップ」を開催し、理論シミュレーショングループ、太陽研究グループ、X線観測グループ間の討議と共同作業を実施した。また、一般相対論的輻射磁気流体コードを用いたブラックホール・中性子星降着流のシミュレーション結果、噴出するジェットによる星間ガスへのフィードバック、非熱的粒子を考慮した磁気流体のシミュレーション結果等を論文・国際会議等で発表した。
2: おおむね順調に進展している
低温円盤と高温円盤が共存する巨大ブラックホール降着流の3次元磁気流体シミュレーションを実施するためのコード開発がおおむね順調に進展している。高次精度3次元磁気流体コードCANS+に、陽的な解法であるSuper Time Stepping法に基づく熱伝導モジュールを実装したことにより、高温領域から低温領域への熱伝導を考慮した3次元磁気流体シミュレーションを高い並列効率で実施することが可能になった。イオン温度と電子温度が異なる領域に適用可能な磁気流体コードについても衝撃波管問題、点源爆発問題等のテスト計算により解析解と一致する結果が得られることが確認でき、降着円盤磁気流体シミュレータに組み込む準備が整った。シミュレーション結果をポストプロセスすることによって輻射スペクトルを計算するモンテカルロ法に基づく光子輸送コードの開発も順調に進んでいる。本研究費により千葉大学にメニーコアのCPUを搭載したワークステーションを設置し、メニーコアCPU用のコードの最適化にも着手した。Astro-H/ひとみ衛星が運用停止になったことにより、ひとみ衛星を用いた新たな観測提案等はできなくなったが、初期観測結果について本共同研究メンバーとの情報交換・議論を行うことができた。また、「すざく」衛星で得られたブラックホール候補のデータ解析や恒星風を含めた降着流研究における観測と理論の連携にも着手した。これまで開発を進めてきた輻射磁気流体コードを用いたブラックホール・中性子星降着流のシミュレーションが順調に進展し、その成果を論文・国際会議等で発表した。太陽プロミネンスの形成モデルを円盤に適用したシミュレーション結果、ジェットと星間ガス相互作用のシミュレーション結果等も論文として発表されている。
熱伝導、イオン温度と電子温度の違いを考慮した3次元磁気流体コードを用いて低温円盤と高温円盤が共存する巨大ブラックホール降着流の大局的3次元磁気流体シミュレーションを実施し、高温・低温領域の共存状態が維持されること、低温領域に蓄積された磁気エネルギー解放による円盤加熱とジェット形成等を示す。また、コンプトン散乱を考慮した光子輸送のモンテカルロ計算コードを適用して輻射スペクトルとその時間変化を計算し、「すざく」衛星等によるセイファート銀河のX線観測と比較することを通して、激しく時間変動する軟X線放射成分の起源等を明らかにしていく。また、輻射磁気流体コードの改訂を進め、輻射輸送計算手法の違いが及ぼす影響を明らかにしていく。磁気流体コードCANS+に自己重力計算モジュールを実装することにより、自己重力を考慮した巨大ブラックホール降着流のシミュレーションにも着手する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 5件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 9件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (49件) (うち国際学会 17件、 招待講演 15件) 備考 (1件)
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