研究課題
巨大ブラックホール降着流・噴出流に適用可能な輻射磁気流体コードの実装とシミュレーション実施、X線観測との連携を進め、研究成果を学会、国際会議で報告するとともに雑誌論文として出版した。最大の成果は、高次精度3次元磁気流体コードCANS+に1次モーメント法に基づく輻射モジュールを実装した輻射磁気流体コードを用いたシミュレーションにより、ブラックホール近傍の光学的に薄い高温円盤とそれより遠方の光学的に厚い円盤が共存する状態が維持されることを示した点である。この状態では光学的に薄い高温領域の降着率がエディントン光度に対応する臨界降着率の10%に達し、ブラックホール候補天体の増光過程で観測される明るいハードステートを説明することができた。電子温度とイオン温度が異なる2温度プラズマを扱うことができる3次元磁気流体コードを適用してジェットの伝播計算を実施し、ジェット先端の衝撃波通過後のバックフローによって形成されるコクーン内部が2温度状態になることを見出した。また、太陽コロナ中での低温フィラメント(プロミネンス)形成の3次元磁気流体計算を回転円盤に適用し、回転円盤においても同様な機構により低温フィラメントが形成されることを示した。2017年8月に「磁気流体プラズマで探る高エネルギー天体現象研究会」を開催して研究成果を報告するとともに、降着流・噴出流に関連する磁気流体研究の到達点と今後の課題を明確にした。また、2018年3月に「ブラックホール降着流ミニワークショップ」を開催し、X線観測グループとの連携を進めた。2017年9月に中国・成都で開催された 1st Asia-Pacific Conference on Plasma Physics 等の国際会議でも研究成果を発表した。
2: おおむね順調に進展している
セイファート銀河のX線観測によって見出された時間変動する硬X線・軟X線放射領域の形成と光度上昇に伴う軟X線放射領域の拡大機構を解明することを目的としたシミュレーションコードの開発とブラックホール降着流への適用がおおむね順調に進展している。1次モーメント法に基づく3次元輻射磁気流体コードを適用することにより、ブラックホール近傍の光学的に薄い高温領域と遠方の光学的に厚い領域を同時にシミュレートできるようになった点が顕著な進展である。高温円盤と低温円盤の境界領域は、セイファート銀河で観測される軟X線放射領域に対応している可能性があり、本研究の目的達成に大きく近づいた。シミュレーション結果をポストプロセスして輻射スペクトルを計算するコードの開発も順調に進んでいる。また、電子温度とイオン温度が異なる2温度プラズマを扱う磁気流体コードをジェット伝播に適用することにより、ジェットのコクーン領域が2温度プラズマになることを示すことができた。Spine-sheath状のジェットからの放射強度分布の再現にもつながる重要な成果である。2017年8月に開催した研究会、2018年3月に開催したミニワークショップ等を通して、X線観測との連携が進展した。特に、2017年9月に増光したブラックホール候補天体MAXI J1535-571は減光中にハードステートとソフトステートの中間状態に長く留まるという時間発展を示しており、高温・低温円盤共存状態についての示唆を与えるイベントとして注目している。高次精度3次元磁気流体コードCANS+を用いた銀河系中心ブラックホール降着円盤とガス雲衝突のシミュレーション結果が論文として出版された。その他の研究成果も国際会議等で発表され、論文として出版されつつある。
輻射磁気流体コードを用いて光学的に厚い領域を含む高温・低温領域共存円盤の大局的3次元シミュレーションを継続し、降着率増大に伴う低温領域の拡大、ブラックホール近傍における移流優勢な高温領域の形成と維持、高温領域と低温領域の遷移領域における磁気エネルギーの蓄積と解放、ジェットの噴出過程等を明らかにしていく。また、super time stepping法に基づく熱伝導モジュールを用いて高温領域からの熱伝導による低温円盤の加熱と円盤物質の蒸発による高温コロナ形成過程の磁気流体シミュレーションを実施し、熱伝導が低温・高温円盤共存状態に及ぼす影響を明らかにする。2温度磁気流体シミュレーションコードを用いた降着円盤シミュレーションも実施する。これらのシミュレーション結果をもとにして輻射スペクトルを求め、セイファート銀河のX線観測等と比較し、X線放射領域の構造と時間変動の起源を明らかにしていく。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 4件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (50件) (うち国際学会 5件、 招待講演 12件) 備考 (1件)
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