研究課題/領域番号 |
16H03957
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木野 勝 京都大学, 理学研究科, 助教 (40377932)
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研究分担者 |
入部 正継 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (60469228)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 補償光学 / 波面センサ / 光干渉 |
研究実績の概要 |
本波面センサにおいて最も重要な光学素子であるピンホール付き偏光ビームスプリッタの光学特性の詳細な測定と評価を進めた。本素子はピンホール内外で直交したワイヤグリッド偏光子となっている。本来遮蔽されるべき偏光方向の光の一部が漏れ出ていることは、これまでの測定から把握できていたが、その強度比だけでなく位相差まで測定することでピンホール内外の光を干渉させた場合にどの様な干渉縞を形成するのかを予測できるようになった。この結果から位相シフトに伴う干渉光の強度変化を計算したところ、位相のズレが事前に予測された90°の整数倍とはなっておらず、また干渉縞のコントラストも予測より低いことが判明した。そこで任意の位相差の位相シフトに対応できるよう解析アルゴリズムを見直した。また新しいアルゴリズムにおける波面測定精度の推定を行ったところ、入射波面が特定の位相差を持つ場合には当初の要求精度を満たさない場合があるものの、補償光学にとって最も重要な位相差0付近での測定精度は十分に高く実用上問題がないことがわかった。この結果については研究協力者である西岡秀樹の学会発表および修士論文にまとめ公表した。 上記の解析アルゴリズムを採用するにあたり、ピンホール内外の光を干渉させるための偏光子を当初想定していた方向に対して45°傾ける設計変更が生じたが、調達すべき偏光子そのものに変更はなく機械設計の修正点もわずかであった。 また本波面センサを組み込む極限補償光学装置(SEICA)を搭載する予定の岡山3.8m望遠鏡(せいめい望遠鏡)が稼働を開始したので、補償対象となる大気揺らぎや、外乱となる振動などを実際に使用する環境において測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初はピンホール付き偏光ビームスプリッタを透過する光は直線偏光だと予想し、もっぱらその強度と偏光方向から波面センサとしての動作の予測と測定精度の推定を行ってきた。しかし直交する偏光成分の位相が本来の透過光成分の位相と異なっていることを示唆する実験結果が得られたため、ピンホールの内部・外部、および本来透過する偏光成分・遮蔽される偏光成分の2×2の光において、そのストークスパラメータを全て調べあげる方針に変更した。測定には時間を要したが、これにより位相シフトに伴う干渉縞の変化を計算機内で推定できるようになり、新しい解析アルゴリズムの構築やそれを用いた場合の測定精度の評価が容易に行えるようになった。 これにより光学素子の配置が確定したので一時中断していた機械設計に変更を反映した。必要な部品類は調達済みであるが、年度内に予定していた実機光学系の組み立ては現在実行中であり、動作確認は次年度にずれ込むこととなった。 全体としては当初計画に対して1年程度遅れており、研究期間内においては波面センサとしての動作確認と補償光学装置SEICAへの組み込みに留まる可能性が高い。最終段階で予定していた測定精度の向上は研究期間の終了後となるが、追加の物品購入等は不要なため当初目標の達成は可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずピンホール付き偏光ビームスプリッタを含めた光学系の組み立てを完了させる。ミクロン単位での調整が必要な箇所が複数あるが、機械設計の段階でその調整手順は十分に検討してあり、これ以上の遅れは生じないと考えている。完成次第、研究分担者の入部が進めている検出器の読み出し・解析装置と統合するとともに、波面センサ単体での動作確認および性能評価に移る。 その後、本波面センサを極限補償光学装置(SEICA)に搭載する。SEICA開発グループでは本波面センサの比較対象となる従来型の波面センサの準備も進めており、SEICAに組み込んでの動作確認が済み次第、すぐに性能評価に移れる見込みである。本研究期間で達成可能なのはここまでと考えており、キャリブレーション結果を反映した性能向上は期間終了後も含めて可能な範囲で実行する。
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