研究課題
太陽物理学の最重要課題である「彩層・コロナ加熱問題」を理解するためには、太陽表面とコロナの連結領域である彩層・遷移層の磁場情報を得る事が必須である。しかし、彩層・遷移層の磁場観測が圧倒的に不足しているのが現状である。そこで我々は、観測ロケット実験CLASPを開発し、平成27年9月に世界初のライマンα輝線 (波長 121.6 nm) での偏光分光観測を成功させた。本研究では、打ち上げ後回収したCLASP観測装置を改良し、ライマン α 輝線よりも精度よく磁場情報を取得できる可能性が高まった電離マグネシウム線 (280 nm) 用の偏光分光観測装置(CLASP2)の開発を行う。開発した装置は、観測ロケットに搭載し速やかに観測を実施し、彩層・遷移層のベクトル磁場構を探るとともに、紫外線領域での磁場測定の有用性を実証する。CLASP2計画は、平成28年12月に正式にNASAに採択された。これにより、平成31年の打ち上げに向けて日・米・欧の足並みがそろい、その開発は本格始動した。本研究では、CLASP2観測装置のうち、肝となる偏光分光器の改造を行う。平成28年度は、まず、改造部分の構造検討を進め、光学系を確定させるとともに構造の詳細設計を完了させた。そして、それに基づき、軸外し双曲面鏡や280 nm用ワイヤーグリッド偏光板をはじめとする各光学素子の製作を行った。また、国立天文台で内製した光学素子の保持機構の黒色化を進め、フライトモデルの開発を完了させた。いずれの光学素子も、単体レベルの検査で目標通りの性能を有していることを確認した。フライトモデルの製作と並行して、偏光分光器の光学調整や性能評価試験に必要なジグの設計・製作も進め、万全な準備体制を整えた。
2: おおむね順調に進展している
本研究を立案した当初の計画は、平成27年8月にNASAへ提出したプロポーザルが採択され、平成30年春に打ち上げを実施するという計画に基づいたものであった。しかし、このプロポーザルは不採択となり、平成30年度末を新たな打ち上げ時期としたプロポーザルを平成28年夏に再提出し、受理された。このように、打ち上げ時期に変更があったものの、我々は、当初の予定通り、フライトモデルの開発を進めた。途中、ゴーストや迷光の懸念が生じたため、スリット鏡を透過型から物理的に孔のあいた金属スリット鏡に変更することとなり、その試作と評価のために光学設計、構造設計、フライトモデルの製作を遅らせることとなったが、予定通りフライトモデルの開発を完了させることができた。また、フライトモデル完成後に行う組み立て、光学調整、性能評価試験の準備も着々と進めており、順調に進展していると評価した。
本研究課題は、平成30年度までに、電離マグネシウム線用の高精度偏光分光観測装置を完成させ、それをNASAの観測ロケットで打ち上げ、観測を実施するものである。平成28年度の成果をふまえ、以下のように研究を推進する。(1) 新規に開発したフライトモデルをCLASP偏光分光器に組み込み、光学調整、光学性能評価試験、新規開発部分の振動試験、偏光較正試験を行う。その後、(2) 望遠鏡と結合し、全系での性能評価試験を実施する。そして、米国へ完成した観測装置を輸送し、NASAマーシャル宇宙飛行センターでのフライトコンピューター等との噛み合わせ試験、ホワイトサンズロケット発射場での観測ロケットとの結合試験、振動試験等を経て、打ち上げ、観測を実施する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
UVSOR Activity Report 2016
巻: 1 ページ: 43
Proceedings of the SPIE
巻: 9905 ページ: 990508-1-12
10.1117/12.2232245