研究課題/領域番号 |
16H03969
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
河合 秀幸 千葉大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60214590)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 放射線測定器 / γ線測定器 / 高位置分解能 |
研究実績の概要 |
高エネルギー素粒子ハドロン実験で従来から用いられているγ線測定器は、無機シンチレーターブロック中で起きた電磁シャワーによるシンチレーション発光の重心を測定するものであり、位置分解能は1cm程度である。本研究では従来の電磁カロリメーターの上流側に、「厚さ1mm程度の板状無機シンチレーターと両面に波長変換ファイバーシート」という測定器を多数層(シンチレーター厚の総計で3rad. length程度)設置して、入射γ線が最初に電子陽電子対生成を行った位置を0.1mm程度の分解能で測定することを目指す。測定器中で多数発生する陽電子が消滅した際に発生する511keVγ線の一部は入射γ線の対生成層より上流側で511keV以下に相当する発光を起こすことがあるので、Minimum Ionizing Particle2個以上に相当する発光がある対生成層の次層以降の発光量は511keVを十分上回ることが測定できなければならない。 本研究の初年度である2016年度はこの「板状無機シンチレーター+波長変換ファイバーシート」という測定器の基本性能を確認した。90Sr密封線源+鉛コリメーターの測定で、この測定器が荷電粒子に対する位置分解能は標準偏差で0.1mm以下であることを確認した。La-GPS高速抽出シンチレーターを用いて波長変換ファイバーの実効減衰長は90cm程度であった。22Na密封線源からの511keVγ線の測定で、波長変換ファイバーの片端で観測できた光電子数は24個であった。宇宙線μ粒子の測定で、厚さ1mmのLa-GPSシンチレーターでのMIP粒子のエネルギー損失は0.9MeV程度であることを確認した。 以上の結果から、本提案の測定器は原理的には想定どおりのγ線位置分解能を持つことが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の提案時点ではGAGGシンチレーターの使用を予定していた。本研究の最初に多種の無機シンチレーターを入手し511keVγ線に対して波長変換ファイバーで測定される光電子数を評価したところ、GAGGで12個程度であったが、LA-GPSの単結晶シンチレーターで50個程度、高速抽出シンチレーターで96個以上と大幅に増加した。本測定器は511keVγ線の測定に利用できると考えていたが、50keV程度のX線でも感度99.5%程度で測定可能である。またコンプトン散乱事象では30keVのエネルギー消費があれば95%以上の効率で散乱位置が測定できる。このため本測定器は511keVγ線を測定するPositrom Emission Tomographyや70keV程度のX線を用いるX線CTなどの核医学診断装置にも利用可能であることが判明した。 例えば家庭用冷蔵庫の冷凍室で作った氷は微小な空気の気泡によって白濁するが業務用冷凍庫でゆっくり作った氷塊は無色透明であるように、透明な無機シンチレーター結晶を製作する場合は1時間あたり1mm程度と非常にゆっくりと結晶を成長させるが、結晶成長を急げば微小な気泡が生じて不透明なシンチレーターとなる。このような従来は不良品として廃棄していた高速抽出シンチレーターが、本研究のような薄い板状に加工した場合は本来なら全反射によって側面方向に伝播するはずのシンチレーション光まで上下面から放出されるため観測される光量が増加する。高速抽出シンチレーターの価格は通常の単結晶シンチレーターの1/5程度である。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は34mm×34mmの測定器2組を製作して、例えば東北大学電子光理学研究センターの陽電子ビームラインのような加速器実験施設で高エネルギー荷電粒子ビームを用いて位置分解能の評価実験を行う。なおこの大きさ34mmは直径2インチの円柱状シンチレーター原結晶から切り出せる最大正方形である。 最終年度となる2018年度は、測定器を3組以上追加製作し、例えば東北大学電子光理学研究センターの高エネルギーγ線ビームを直接照射して、本測定器のγ線に対する感度・位置分解能・エネルギー分解能・誤測定率などを評価する。
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