研究課題/領域番号 |
16H03977
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
樽家 篤史 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (40334239)
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研究分担者 |
松原 隆彦 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (00282715)
山本 一博 広島大学, 理学研究科, 准教授 (50284154)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙の大規模構造 / 高次統計量 / 精密宇宙論 |
研究実績の概要 |
3年目にあたる本年度は、2点・3点統計を用いた宇宙論データ解析法の確立において本質的な、バイスペクトルの高速測定コードを完成させるとともに、エラー共分散を多数のシミュレーションデータをもとに求めた。さらに、摂動計算をもとに、前年度までに開発した理論テンプレートの拡張を行い、修正重力理論に対する制限を可能とする汎用性の高いテンプレートを開発した。シミュレーションによる検証を経て、将来的な宇宙論的制限に対する有用性について考察を進めた。各人の主な成果は以下のとおりである。 まず、代表者・樽家は、広いクラスの修正重力理論において、バイスペクトルの非線形重力進化を摂動論にもとづいて計算するコードを開発し、シミュレーションとの比較を行った。また、重力レンズの全天シミュレーションデータを用いて、CMBレンジングのバイスペクトルを測定、フィッティング公式を含めた理論モデルとの比較を行った。さらに、摂動論にもとづくパワースペクトルの理論テンプレートがどれだけ精度よく宇宙論パラメーターを推定できる、統計解析を行った。ついで、分担者・山本は、PythonによるSDSSIII BOSS銀河データのバイスペクトル計算コードの開発を推進した。また、銀河-ボイド相関関数におけるボイドの重力赤方偏移のシグナルが双極子成分に現れることを示した。一方、分担者・松原は、バイアスの個別モデルについて調べるため、特にピークモデルについての摂動論的展開方法について研究を行った。摂動展開における積分核を3次のオーダーまで具体的に求めて計算した。最後に、連携研究者・高橋は、4千個ものN体シミュレーションデータを用意し、密度分布のバイスベクトルの共分散行列を精密に測定した。多数(101モデル)の宇宙モデルに対しN体計算を実施し、暗黒ハローの観測量(質量関数やバイアス)を再現できる emulator の作成に携わった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度で追加研究の必要が生じた課題については、本年度に継続して進めることになったが、前倒しで進めた研究が順調に進み、予想より早く終えることができたおかげで、追加研究に時間を割いて取り組むことができた。結果として、当初の予定通り計画を進めることができた。特に、シミュレーションでパワースペクトル他、バイスペクトルのエラー共分散を求めることができた点は、データ解析手法の完成に向けて重要な一歩であった。また、バイスペクトルの高速測定コード開発もデータ解析の効率化と高速化において本質であった。さらに、理論テンプレートの汎用性が高まった他、バイアスの性質も明らかになり、ロバストなパラメーター推定への目処がつきつつある。今後は、これらの成果を統合することで、次世代宇宙論観測に応用可能なデータ解析手法が完成すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
分担者・連携研究者らの協力により、当初計画で期待していた通りの成果が上がっている他、波及効果として将来観測で得られる精密観測データを念頭においた様々な考察を進めることができた。こうした研究は、2点・3点統計を組み合わせた宇宙論データ解析法の開発の意義を高めるとともに、他の観測への応用を進める上でも重要である。この点を念頭に、今後の方策として、まず代表者・樽家は、2点・3点統計のデータ解析方法の完成に向けてこれまで得られた成果・手法の統合を行う他、赤方偏移空間歪みの系統的効果として知られる広角度効果のインパクトを理論モデルをもとに調べ、通常の多重極展開にもと づくデータ解析への影響を明らかにする。一方、分担者・山本は、観測への応用に向け、FFTを用いたSDSSIII BOSS銀河データのバイスペクトル計算コードの開発を推進し、分担者・松原は、実用的なバイアスモデル構築を目指し、ピークモデルやその他の具体的バイアスモデルを摂動論に組み込むための研究を推進する。最後に、連携研究者・高橋は、N体シミュレーションを用いて、摂動論の理論テンプレートより適用範囲の広いバイスベクトルのフィッティング関数の作成を進め、その有効性と精度を幅広い宇宙モデルや赤方偏移で検証する。
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